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「人間の生き方は、仕事に取り組む姿勢と同じにしかなり得ない」。闘将シメオネのフットボール観【後編】

シリーズ:闘将シメオネのフットボール観 text by 江間慎一郎 photo by Getty Images

フットボールの理解度は、どの監督も似たり寄ったり

現役時代、アトレティコの選手としてもプレーしたディエゴ・シメオネ
現役時代、アトレティコの選手としてもプレーしたディエゴ・シメオネ【写真:Getty Images】

G テレビゲームではないんだからね。

S そう、ゲームではないんだよ。監督はプレーを実践するスペースを用意する。そして選手たちがすべきは、プレーにほかならない。私には選手たちが監督をより素晴らしくするという確信がある。

 我々監督にはアイデアがあるが、それを実践するのは選手たちにほかならない。指示を受けた彼らが、もしピッチ上で判断を間違ってしまったら……。その点で言えば、カルロ・アンチェロッティ、ヨアヒム・レーブ、シメオネ、リーガ2部Bで働く指揮官の違いなんてものは、経験以外に存在しない。

 我々監督は、全員が同じことを感じているものなんだ。もちろん、ある監督は違う監督より自分の意思を伝達する能力に優れていたり、チームに精神的な衝撃を与えてリアクションを起こさせたりもできる。そのような違いがあることには、もちろん同意するよ。だがフットボールの理解度ということでは、全員が似たり寄ったりだ。

M グスタボから、ジャマイカでの出来事を聞いたけど……。

S アルゼンチン代表としてボリビア戦に臨み、その後にバケーションでジャマイカへと向かったんだ。グスタボは別行動だったが、彼の行き先もジャマイカだった。

G ジャマイカで、チョロは隣のホテルに滞在していた。一方で私は、新婚旅行の真っ最中だった。結婚はしたけど時間がなかったから、ジャマイカに行くことにしたんだ。それで滞在2日目の朝8時30分くらいに、部屋の電話が鳴った。

「ここはジャマイカだぞ。一体誰だ?」と思ったが、かけてきたのはシメオネで、「チョロ、何かあったのか?」って聞いたら、「おい、これからプピ(ハビエル・サネッティ)と走りに行くけど、お前も来るか?」って誘ってきたんだよ(笑)。

「お前らと同じ場所にいるけど、こっちは新婚旅行なんだ」って(笑)。あとは1999年のコパ・アメリカのことも思い出すね。私はチョロ、あとマルティン・パレルモと同じ部屋だったけど、睡眠をとることができなかった。チョロが寝なかったんだよ(笑)。

M それはなぜ?

G 彼はインテルからラツィオに移籍する寸前だった。こっちは気が狂いそうだったよ。

S いや、移籍したくなかったんだ……。居場所をただ変えるためだけに変えるというのがたまらなくイヤで、アトレティコからインテルに移籍することだって望んではいなかった。快適に過ごせている場所には、完全に住み着いてしまうからね。そうやって自分の居場所を変えていくことは好きじゃない。

G 部屋の中で、「俺は行かない」という彼の独り言を聞き続けていたね。

S 「俺は行かない。絶対に行かない」ってね。

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