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EURO2016 8年前

EURO開催国フランスのいま。テロへの警戒。厳戒態勢下でもファンゾーン設置の意義【現地レポート】

text by 小川由紀子 photo by Yukiko Ogawa

陰鬱なことが多い状況だからこその開催意義

 Le Point 誌は、パリのスタジアムで試合が行われる日、たとえば12日のトルコ対クロアチア戦(パルク・デ・プランス)、16日のドイツ対ポーランド戦(スタッド・ド・フランス)のときなどには、ファンゾーンを閉鎖する案もあると報じている。各試合会場に警備員をとられることや、先日の同時テロでもスタジアムとコンサート会場が狙われたことで、人が集まる会場を同時に設けないための処置だ。

 また、ファンゾーン全10会場のうち、リール、ランス、ニース、リヨン、サンテティエンヌ、トゥールーズの6ヶ所では、当地で試合がある日のみファンゾーンを開放することを決定した。

 そんな状況の中で敢行する今回のEUROは、フランスにとって2つの大きなチャレンジだ。

 1つめは、これほどテロリストにとって格好の標的となるイベントを安全に遂行することができれば、フランスの高い警備力や情報力を世界に証明でき、フランスがテロの脅威に屈しない国であるとアピールできること。その視野の先には、パリ市が目指している、2024年のオリンピック誘致がある。

 2つめは、テロの恐怖を身近に味わった人々がこのようなイベントに参加することで、昨年11月の事件を乗り越えて、テロへの恐怖や不安なくこれまでと同じように生活を楽しむことができるのだということを身をもって証明することだ。

 サッカーと社会の関連性に詳しい人類学者のブロムバーガー氏も、「いろいろ陰鬱なことが多い昨今だからこそ、このイベントは、人種や階級などの壁を超えてみんなで弾けて発散する絶好の機会になる」と、今回のEUROはフランス人にとってポジティブな影響を及ぼすと予測している。

 何が起こるかはわからない。テロだけでなく、サッカーイベントにはつきもののフーリガン闘争といった古典的なトラブルだってある。98年のW杯では、巻き込まれた警備隊員が命を落とした。

 恐怖心を煽りすぎるのはよくないが、何かが起こったときの身の安全は保証されていない以上、自分の判断と責任で行動するのだという覚悟は必要だ。

 リヨン会場の警備を任されている警備会社の責任者からして「自分の子供は絶対に会場には近づけない」と話している。

 本来、友好的な場となるはずのスポーツイベントが、テロ行為へのチャレンジとなるのは悲しい限りだが、とにかく今は、大会が無事に成功することを祈るのみだ。

 サッカー欧州ナンバー1を決定すること以外に、今回のEUROが背負う意義は大きい。

(取材・文:小川由紀子【パリ】)

【了】

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