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為末大さんに問う、アスリートとメディアの理想的な関係。選手は守られすぎている【INTERVIEW】

text by 海江田哲朗 photo by Editorial staff, Getty Images

マネジメント会社が守ってくれることで逆に失うもの

――大手のマネジメント会社に所属するメリットとは?

「守ってくれるんですね。ブランドをコントロールしてもらえる。そうすると自分の価値が高まり、収入は増えるんですが、一方で損なわれるものもある。実際に社会がどうなっているのかを知る経験値が損なわれるんですよ。ブランドを保つことは、余計なことをさせないのとセット」

――安全第一になる。

「そうなりがちです。でも、余計なことに、豊かな経験があるわけじゃないですか。たとえば、どこかに出かけるとき自分で切符を買うこともそう。取材を受ける際、新聞の社会部は思わぬところに突っ込んでくるから、リスク回避のために断ったほうが賢明だとやめておくと、そこでの経験が損なわれていく。相手とのやり取りのなかで、この質問はどういった意図を持つのか考えを深める機会を失うんです」

――現在、多種多様なメディアから取材を受けるなか、原稿のチェックには神経を使うのでは?

「基本的にはマネージャーが見て、最後に僕が目を通すのですが、ほとんど生で世に出ていきます。危なっかしいこともいろいろとあったりするんですが、仮に誤解されたとしても元をたどれば自分が取材という勝負の瞬間にきちんと神経を張りめぐらせ、計算し切れていなかったということ。人間、そこからのフィードバックによって、だんだんと経験が増し、できるようになっていくものです。その機会の損失が最大のリスクだと感じます」

――私は、そういった話を取材される側から聞くのは初めてです。

「社会人だったら、なんとなく理解できると思いますがね。修羅場をくぐった数が、のちの自分を助ける」

――みんな、傷つくのを非常に恐れますよ。たしかにいまの世の中、一度の過失で大きく転ぶ可能性はあるんです。たったひと言がいつまでも残り、誤解もなかなか解けない。

「わかります。僕の場合は、傷だらけのブランディングがコンセプトですから」

――故・松田優作みたいな。

「そうそう。だから、うちの社員はいろいろと苦労があると思います。でも、そのほうが人生終わったときに面白いかなと。コントロールされ、お膳立てされすぎてしまうと、やはり面白くないですよ」

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