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為末大さんに問う、アスリートとメディアの理想的な関係。選手は守られすぎている【INTERVIEW】

text by 海江田哲朗 photo by Editorial staff, Getty Images

若かりし頃、苦痛だったクローズアップのされ方

現役時代、陸上以外のメディアに取り上げられた際に、自分の意図と若干のズレが生じたことがあったという
現役時代、陸上以外のメディアに取り上げられた際に、自分の意図と若干のズレが生じたことがあったという【写真:Getty Images】

――若かりし日の為末さんが、こういうクローズアップのされ方は苦痛だったというのは?

「現役時代、メディアに悩まされたり、いやな思いをした経験はほとんどないですが、20代の後半かな、陸上以外のメディアに取り上げてもらえることが増えてきて、自分の意図と若干ズレが生じたことはありました」

――『アン・アン』などの女性誌がアスリート特集で取材に来たり。

「それもありましたね。モテるかなと思ってやってみたら、たいしてモテなかった。たとえば、先に企画の大きな枠組みがあって、そこに組み込まれるパターン。主にテレビですね。お金に苦しんでいるアマチュアアスリートといった文脈の取材では、僕がいろいろ説明しても、最終的には競技にこれだけのお金がかかり、収入はこのくらいといった話にまとめられてしまう。テレビの企画はお金と人手がかかっているので、途中で引き返しにくいんですね。何度か経験するうち、おそらくこういう役どころなんだろうなと想像がつくようになって」

――平面的な切り取られ方がしんどかったですか?

「当時のトップアスリートで、イチローさんのような世界的に有名な域に達したい気持ちが強くあり、一方で自分はそういう人間ではなく、400メートルハードルはマイナー競技。難しいのはわかっていました。とはいえ、どう言えばいいかな……当時の僕からすると辛気くさくて貧乏くさい、陸上だけのヤツと捉えられるのがね。ほかにもいろいろできるんだ、もっとスマートな見せ方はないものかと」

――為末=ストイックの図式は、パブリックイメージに近いと思います。

「いま振り返ってみると、ただひたすら狂気のごとく、なりふり構わずハードルと向き合った自分も悪くないと感じます。あと、なんでしたかね。大阪の世界陸上で予選敗退したときだったかな。僕はメディアの前で『戦術ミスです』と言い張ったんですが、実際は心理的に負けたんですよ。

 でも、それを周りから突っ込まれたくなかった。勝負弱いというのは、陸上選手にとって一番クリティカルなダメージを受ける、最も貼られたくないレッテルなんです。戦術や準備で失敗したとされるのはいい。本番で心が弱くて負けた。これがきつい。メディアの方で、ひとりだけそこに切り込んできた人がいました」

――もしや、メンタルにブレがあったのではないかと。

「いやでしたねえ。なぜなら、そのとおりだったから! かつての自分のように首を振りながら答えるとき、その人の本質が出るんだろうな。最近、インタビューする側の仕事をやるようになってわかってきました」

――その振動が伝わるのが、たまらなく魅力なんです。

「そう。この人、いま揺れ動いているなと感じられるのがいい。一方で、選手が揺れ動いている自分をメディアに切り取られたくないというのもわかる。読者の立場からすると、そのへんは面白いですよね。いまでこそ、そう言えるわけですが」

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