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為末大さんに問う、アスリートとメディアの理想的な関係。選手は守られすぎている【INTERVIEW】

text by 海江田哲朗 photo by Editorial staff, Getty Images

切っても切れないアスリートとメディアの結びつき

――時代の流れにともない、アスリートとメディアの関係が移り変わり、取材でギャラが要求されるケースも珍しくありません。取材によって発生する報酬について、為末さんはどのようなスタンスをお持ちですか?

「昔からそのあたりには頓着してこなかったですね。いまも社内では取材で金額の交渉はしないでほしいと言ってあります。だから、ゼロのときもありますよ。まあ、僕の場合はマイナー競技だったんで、世の中に知ってほしい渇望感が強かったうえ、どうすれば興味を持ってもらえるのかという姿勢からのスタート。メジャーな競技をやっていたら、まったく違う考えを持ったかもしれません」

――自ら発信しないことには始まらないと。

「金銭を得るよりも、世の中に自分の考えが出ることのほうが圧倒的に価値が大きい。僕の趣味趣向もありますね。若いアスリートたちに自分の声が届く可能性があるなら、そっちのほうのバリューが高い。実際、自分もほかのアスリートの言葉で勇気づけられることがありますし、循環の一部としています。僕は循環を増やしたほうがいいと考えている側の人間ですので」

――その循環において、メディアは媒介する役割を持ちます。

「ほとんどの人は、スポーツという魅力的なものが昔から存在し、あとから報道するメディアがくっついてきたと考えているのでは。でも、実際にはメディアがなければ、近代オリンピックは誕生していないんですよ。人知れず行われているスポーツにはスポンサーが付かず、現地には感動があったとしても、メディアを通さなければ広く伝わることはない。競技者にロイヤリティが生まれ、より大きく発展していくこともありません。

 その点、スポーツとメディアの間柄は、通常のビジネスというより、一種の共闘関係です。そこで発生する金銭も、両者の関係性においてどんな形が望ましいのかという議論、考え方になっていくほうがいい。時には互いが手を組み、時には罵り合ったりしつつ、切っても切れないもの。スポーツとメディアの結びつきはそういうものだと僕は捉えています」
(『フットボール批評issue14』の記事を一部再編集して掲載しました)

【了】

(プロフィール)
為末大(ためすえ・だい)
1978年5月3日、広島県出身。元陸上選手。01年エドモントン大会、05年ヘルシンキ大会の世界陸上選手権の男子400メートルハードルで銅メダルを獲得。五輪大会には00年シドニー大会、04年アテネ大会、08年北京大会と3大会連続で出場した。現役時代は『侍ハードラー』の愛称で親しまれた。引退後はテレビやラジオなどに多数出演、自身のSNSやブログでも積極的に考えを発信するなど、今や元スポーツ選手の枠を飛び越え、文化人としての立ち位置で活躍を続ける。著者多数。

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