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ACL初の女性監督が語る指導者論。28歳の新米監督が乗り越えた困難、そして川崎への感謝

text by 舩木渉 photo by Getty Images

“チケット買い上げ“の真相。川崎への感謝とエール

チャン・ユエンティン
川崎フロンターレ戦で等々力陸上競技場のベンチに座るチャン・ユエンティン監督【写真:Getty Images】

 最後に、ある噂について質問をぶつけてみた。ACLグループステージ第2節、川崎FがアウェイでイースタンSCと対戦した試合、チケットは地元ファンによって即完売となり、当日券を求めて渡航した多くのフロンターレサポーターが“チケット難民”になってしまったという。

 それを耳にしたイースタンSCのチャン監督が、クラブから余っているチケットを自腹で買い取ってスタジアムの外で途方に暮れるフロンターレサポーターに配ったというエピソードが伝えられていた。真相はどうだったのか、チャン監督は笑顔でこう答えた。

「私は一銭も払っていませんよ(笑)。チケットをクラブから手に入れてきただけです。クラブがアウェイファンのためのスペアのチケットをいくらか持っていて、それを配布すると決めたということです。日本のファンの皆さんは、遠いところから飛行機で、相当なお金をかけて来てくださいました。そういった方々がスタジアムの中で試合を楽しむべきだと思いましたし、実際に観戦できたと聞いて私も非常に嬉しく思います」

 前述のエピソードが広まっていたからかフロンターレサポーターは、9日に行われたイースタンSCとの試合前に感謝のメッセージが書かれた横断幕を掲げた。前日から歓迎ムードを作り出し、スタジアムでは“恩人”への拍手も聞かれた。そんな様子を見たチャン監督は、川崎Fへの感謝とエールを託してくれた。

「中国や韓国と比べても、川崎の雰囲気は最高でした。川崎がベストスタジアムです。雰囲気だけでなく、フロンターレのファンの方々も素晴らしかったですし、アウェイチームに対しても礼儀正しく、リスペクトを見せてくださいました。私からフロンターレファンの皆さんに感謝申し上げます。そしてこの大会でいい結果が出ることを祈っています。私たちにはまだACLの予選に出場するチャンスがあります。またここに戻ってきたいですね」

 イースタンSCは国内リーグのレギュラーシーズンを2位で終えたため、残念ながら来年のACL本戦出場権を手にすることはできなかった。帰国後に2位から5位の4クラブによるプレーオフを戦い、勝者に与えられるACL予選2回戦出場権獲得を目指すことになる。チャン監督の眼は次なる戦いに向けて輝いていた。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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