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ACL初の女性監督が語る指導者論。28歳の新米監督が乗り越えた困難、そして川崎への感謝

男子サッカーのトップリーグを制した初めての女性監督にして、ACL史上初の女性監督としても注目を集めた香港王者・イースタンSCのチャン・ユエンティン監督。初めてのアジアの舞台はほろ苦い結果に終わったが、指導者として大きな一歩を踏み出した。そんな28歳の新米監督が、5月9日に行われたACLグループステージ最終節の川崎フロンターレ戦の記者会見後に、日本メディアではおそらく初めての単独取材に応じてくれた。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

突然の監督就任、チーム存続の危機。幾多の困難を乗り越えられた理由

チャン・ユエンティン
イースタンSCのチャン・ユエンティン監督【写真:Getty Images】

「正直なところ、最初は本当にナーバスになっていました。精神的にも疲れていましたね」

 香港・イースタンSCの陳婉婷(チャン・ユエンティン)監督は男子サッカーのトップリーグで優勝した世界初の女性監督としてギネス世界記録に認定され、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の舞台に立った初めての女性監督としても注目を集めた。

 中国2部の梅州客家に引き抜かれた楊正光(ヨン・チンクォン)前監督からチームを引き継いだのが2015年12月のこと。元々はアシスタントコーチだったチャン監督は、前任者と梁守志(ピーター・リョン)GMの強い推薦によって、シーズン途中からイースタンSCを率いることとなった。

「それまで監督をした経験はなかったですし、女性の監督がどうやってチームをまとめていくかもわかりませんでした。アシスタントコーチたち、そして選手たちが皆プロフェッショナルな姿勢を見せてくれたのは幸運でした。彼らは私をリスペクトして、常に励ましてくれました」

 チャン監督は2010年頃から2013年まで別のチームのデータアナリストや下部組織のコーチを務め、2015年夏にアシスタントコーチになったばかりの新米指導者だった。そんな彼女は周囲の懐疑的な目線をよそに、瞬く間にチームをまとめ上げて、イースタンSCを21年ぶりのリーグ優勝とACL出場権獲得に導いた。

 しかし、昨年のシーズンオフにイースタンを危機が襲う。長年クラブに投資してきたオーナーが支援撤退を表明し、リーグ戦やACL出場辞退の恐れが出てきた。結局は昨年8月に新しいスポンサーが見つかって最悪の事態は回避できたものの、一旦辞退を申し出ていた悲願のACL出場は絶望的な状況だった。それでもチャン監督は続投を決断する。

「(オーナーが手を引いたことに)私はとても驚き、混乱していました。本当に残念な出来事でした。しかし、それは香港サッカー界の文化でもあります。常にそういった問題に直面しています。なので私はポジティブでいようと心がけていましたし、クラブが問題を解決してくれることを信じて、トップレベルの選手たちがいるチームを率いていくことにしました。

こういった事態に陥った場合、チームスピリットが非常に重要になります。幸運だったのは全員が共に残ると言ってくれたこと。だからこそ乗り越えられたのです。私は本当に嬉しかった。彼らはクラブをリスペクトしているだけでなく、家族のように愛しています。それこそがイースタンに残ると決めた理由でもあります」

 のちにACLに関しては辞退が受理されず、イースタンSCの資金面の問題も解決したため無事に初の本戦出場が叶った。

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