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Jリーグと相撲の魅力に共通する「下積みの物語」。能町みね子×宇都宮徹壱【「サッカー本大賞」受賞記念対談】

text by 編集部 photo by 宇都宮徹壱、編集部

大相撲人気からJリーグが学ぶべきこととは?

能町みね子
相撲の技を説明する能町氏【写真:編集部】

宇都宮 ここでちょっと書籍の話題から離れて、能町さんの専門である相撲のことを聞きたいのですが、最近の大相撲は満員御礼が続いていますよね。一時期、不祥事が続いて人気が凋落した時期のことを考えると、驚くべき復活ぶりだと思います。背景にはファンサービスの見直しがあったと思うんですが、いかがでしょうか。

能町 それはありますね。これまででは考えられなかったようなことを、けっこうやっています。抽選に当たった人を人気力士の遠藤がお姫様だっこして、その写真をプレゼントするとか(笑)。あと、日本相撲協会の公式twitterがあるんですけど、最近はかなり力士のプライベートショットやオフショットも増えましたね。

――フォロワーが29万人いますね。Jリーグ公式が28万8000人(2017年5月時点)なので、だいたい同じくらいですか。

能町 もちろん公式なので、真面目なお知らせツイートもあるんですが、最近はかなりカジュアルな写真もアップされるようになりましたね。おそらくSNSのプロみたいな人がスタッフに入ったんだと思いますけど。

宇都宮 そうした相撲界の取り組みをご覧になって、何かサッカー界でも参考になるような話ってありますかね?

能町 私が最初、Jリーグに対して若干抵抗があったのが、サポーターがすごく熱いイメージがあったんですね。熱すぎて、逆に私みたいな素人が行っていいのか、みたいな。熱いイメージもわかるんですけど、もうちょっとソフトなサポーター像というものもアピールできたほうがいいかな、とは思いますね。

宇都宮 TVの情報番組とかスポーツニュースなんかだと、どうしても「熱いサポーター」ばかりを映し出してしまう傾向はありますよね。

能町 やっぱり選手とファンとの距離が近いことって、大事だと思うんですよ。相撲って異常なくらい力士とお客さんが近いんですよね。地方場所だと導線がまったく一緒ですし、横綱級以外の人はわりとガードもゆるゆるなんです。

 カマタマーレ観戦も似たところがあって、選手との距離感がすごく近いのがいいなって思いました。選手も地元のお兄ちゃんって感じだし、試合のあとにサイン会とかやっているし。これがJ1になると、ちょっと敷居が高い感じになるのが残念ではあります。

――僕が『能サポ』を読んで強く感じたのが、結局のところ「自由に語った者勝ちなんだな」ということでした。僕も『サポーターの冒険』を書いていたときは「サポーターから変な指摘をされないかな」と心配したりしていましたけど、素人だからこその発見や喜びもあるわけで、そういうことを語る楽しみってもっとあってもいいと思うんですよね。

能町 サッカーでも相撲でもそうなんですけど、マニア同士の会話は確かに楽しんですが、マニアが思いっきり降りて来て初心者にわかる言葉で語ることも大事だなと思っていて。逆にマニアばっかりが固まって「あいつはわかってないからダメだ」みたいなことだと、なかなか競技の裾野って広がっていかないですよね。

宇都宮 いや、おっしゃる通りです。「すべてのジャンルをマニアが潰す」という有名な言葉がありますが、サッカーの世界もそういった風潮がたまに見られるので気をつけたいですよね。NHKの『ニュース シブ5時』で、能町さんが大相撲のマニアックなネタをとてもわかりやすく伝えている話術というものは、ジャンルは違えども非常に参考になります。

――というわけで能町さん、今後もカマタマーレ讃岐を応援してあげてください。

能町 また今週末に応援に行ってきます!

プロフィール

●能町みね子(のうまち・みねこ)

漫画家。北海道出身、茨城県育ち。2006年、イラストエッセイ『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)でデビュー。著書『くすぶれ! モテない系』(ブックマン社)、『縁遠さん』(メディアファクトリー)、 『ときめかない日記』(幻冬舎)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『ひとりごはんの背中』(講談社)、『お話はよく伺っております』(エンターブレイン) など多数。雑誌やネット媒体での連載も多くかかえる。また、『久保みねヒャダ こじらせナイト』(フジテレビ)、『ニュース シブ5時』(NHK総合)にも出演。このほど『能サポ』でサッカー本大賞2017を受賞。

(文:編集部)

【了】

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