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Jリーグと相撲の魅力に共通する「下積みの物語」。能町みね子×宇都宮徹壱【「サッカー本大賞」受賞記念対談】

text by 編集部 photo by 宇都宮徹壱、編集部

大賞受賞でカマタマーレ讃岐からまさかのVIP待遇

能町みね子
それぞれの本で同じスタジアムを取り上げていた【写真:編集部】

――司会を担当する中村です。今日はよろしくお願いします。実は僕にとって、能町さんは大学の先輩、宇都宮さんは書き手としての大先輩ということで、ちょっと緊張しています(笑)。あらためまして、サッカー本大賞おめでとうございます。

能町 ありがとうございます。宇都宮さんの『サッカーおくのほそ道』、読ませていただきましたけど、すごく面白かったですね。こういう言い方はおこがましいんですけど、意外と私の本で書いたことと被る部分がけっこうあって、同じところに着地している感じが興味深かったですね。

宇都宮 被っているといえば、『能サポ』でSAGAWA SHIGA FCのホームスタジアムを訪問した章があって、スタンドの向こう側にラブホテル群が見えるというくだりがイラストと共に言及されていましたよね。私の本でも、まさにあの会場の写真があるという(笑)。自分が取材した現場に、能町さんも足を運んでいたというのが純粋に嬉しかったです。

――特定のカテゴリーにこだわらないというのは、おふたりの共通点かもしれませんね。さっそくですが、今回のサッカー本大賞を受賞されたことで、能町さんの周りではどんなリアクションがあったのでしょうか?

能町 この本がエントリーされた時点で、担当編集者は「これは行けるんじゃないか」と思ったらしいですけど、私はサッカー本大賞の存在をまったく知らなかったんですよ。ただし、こういうふざけた文体の本が受賞できるとは正直思えなかったので、かなりびっくりしましたね。

宇都宮 授賞式のスピーチでも、そのように話していらっしゃいましたよね。そのあと、カンゼンさんのオフィスでの2次会にも参加していただきました。あの場にいたサッカー業界の面々をご覧になって、いかがでしたか? けっこう怪しい人もいましたが(笑)。

能町 ロック総統ですね? 最初は何の人か、よくわかりませんでしたけど(笑)。アットホームで手弁当な雰囲気が居心地よかったですね。

――ちなみに相撲ライターの世界ってあるんですか?

能町 あんまり。まず、母数がものすごく少ないんですよ。いわゆる新聞記者でなく、フリーで相撲のことを専門に書いている人って、私が知る限り数人です。おそらく一堂に会することもほとんどないと思います。

宇都宮 なるほど。話を戻しますが、授賞式の翌日に香川に行ってカマタマーレのホームゲームをご覧になりましたよね。あの時は地元のファンからそうとう祝福を受けたのでは?

能町 確かに、あれはちょっとびっくりしましたね。それまではこっそり試合を観に行って、こっそりレポートするというようなスタンスでやっていたんですよ。ところが担当編集者のスルギくんが香川出身だったものだから、だんだんクラブ側の人たちとのやりとりが増えていって。

 それでもいい意味で、グダグダ感を保っていたんですけど(笑)、今回の受賞でまさにVIP待遇のような感じになってしまったんですよ。あの日もクラブには「今日、行きますよ」なんて一言もお知らせしなかったのに、サポーターの皆さんから大歓迎を受けたんですよ。

――讃岐の場合、ゴール裏ではなく(メインから見て)スタンドの右側で応援していますけど、あそこに行ったんですね?

能町 そうです。そうしたら、皆さんひとりひとりと両手で握手する感じになって。さすがに「能町コール」はなかったですけど(笑)。

宇都宮 そこでようやく受賞をした実感が湧いた感じですか。

能町 というか、香川の人に認めてもらえたことの方が嬉しかったですね。

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