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ドルト新監督が挑む“クライフ流”の大改革。刻まれたクロップのDNA、難航する再構築

近年のボルシア・ドルトムントを語る上で、ユルゲン・クロップという男の功績は欠かせない。ゲーゲンプレッシングなる守備戦術を生み出した熱い男がチームに残した遺産はあまりにも大きかった。変革を望んだトーマス・トゥヘルは志半ばで去り、新たにピーター・ボス監督が就任。果たしてヨハン・クライフの信奉者である新指揮官は、ドルトムントで成功への道を見出せるのだろうか。(取材・文:本田千尋)

text by 本田千尋 photo by Getty Images

クロップが生み出した「ゲーゲンプレッシング」

クロップ
ドルトムントの選手たちにはユルゲン・クロップが編み出したゲーゲンプレッシングの動きが染みついている【写真:Getty Images】

 数年来、ボルシア・ドルトムントのサッカーの本質はカウンターだった。2008年7月から2015年6月まで、7年にわたって監督を務めたユルゲン・クロップが、プレッシング及びゲーゲンプレッシングという戦術で旋風を巻き起こしたのは記憶に新しい。

 プレッシングとは、相手がボールを持っている時にチームが連動して圧力をかけていくことだ。ゲーゲンプレッシングとは、自分たちがボールを失った瞬間、反射的に動いてプレスをかけることである。敵陣の深い位置でボールを奪い返すことができれば、相手の守備組織が整わないうちにゴールへ迫ることができる。アリーゴ・サッキが率いたACミランのゾーンプレスに影響を受けたクロップは、研究の末に独自の守備戦術に辿り着いた。

 クロップ時代のハイライトは2010/11、2011/12シーズンの2年間になるだろう。感情表現豊かな指揮官は、フンメルス、シュメルツァー、グロスクロイツ、ゲッツェ、そして香川真司ら20代前半の選手たちを積極的に起用。カウンター主体の縦に速いサッカーでブンデスリーガを席巻した。2010/11シーズンはリーグ優勝。2011/12シーズンはカップ戦も制覇し、国内2冠を達成している。

 さらに翌2012/13シーズンはチャンピオンズリーグの決勝に進出。ファイナルでは宿敵バイエルン・ミュンヘンに敗れたが、クロップは、プレッシング並びにゲーゲンプレッシングという守備戦術の正当性を欧州の舞台でも証明した。

 しかし香川、シャヒン、ゲッツェ、レバンドフスキと次々に主力を引き抜かれ、徐々にチームは弱体化。シャヒンと香川は復帰したが、2014/15シーズンは自陣に引いて守りを固める相手を崩せず、一時は最下位まで転落してしまう。

 積極的に攻めてこない、ボールを奪おうとしてこない相手に対し、ゲーゲンプレッシングを軸とするカウンターを発動することは難しかった。限界を悟ったクロップは、20215年4月、クラブに契約解除を申し出た。

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