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コウチーニョ騒動が象徴する現代移籍市場のいびつな構造。過剰なインフレ、狂ったパワーバランス

text by Kozo Matsuzawa / 松澤浩三 photo by Getty Images

移籍市場は空前のインフレ状態。サッカー界のパワーバランスにも変化

 それだけに、識者の中には移籍に賛同する声も少なくない。『BBC』で解説者を務めるジャーメイン・ジェナスは「リバプールが選手を成長させた部分も大きいが、コウチーニョもクラブのためによくやった。今回のバルサからの申し入れは、選手にとってだけではなく、クラブにとっても破格のオファーなのだから、移籍させてあげるべきだ」という。

 一般企業でもあり得る話ではないだろうか。つまり、次のような内容だ。

「コウチーニョさんが現在務めるA社は国内の一流企業。彼はA社の敏腕社員。最近昇進し、1月には給料も大幅にアップして順風満帆。しかしその半年後にリクルーメント会社から『世界を相手にする“超”一流企業のB社があなたに興味を示している。待遇は、現在よりもさらによくなるはずです』と連絡が入った。リスクもあるが、これまでに得られなかった成功を遂げる可能性もB社ではある。さて、コウチーニョさんはどうすべきでしょうか?」

 答えは簡単に出るはずだ。普通の会社であれば、辞表を提出すればその1ヶ月後、もしくは契約によっては3ヶ月後には辞められるはずだ。業種によっては6ヶ月後ということもあるかもしれない。いずれにしろ、辞表は受け入れられる。そしてリバプールを所有するフェンウェイグループのオーナーが発表したような「絶対に移籍はない」というような、声明文を出されることも決してないだろう。

 無論、サッカーの世界は異次元の空間だ。ファンが納得いかないのも分かるし、昨今は選手の持つ力が大きすぎる、代理人の影響力が強すぎるという議論もよく耳にする。実際、代理人が操作する状況の現在の移籍市場では、空前のインフレが起きている。

 プレミアの全クラブは、莫大な放映権料を受け取るという背景もあった。しかしながら、昨季までトップレベルの選手獲得に要するのは3000〜4000万ポンド(約42億円〜56億円)が相場で、そのさらに上をいく選手には5000〜6000万ポンド(約70億円〜84億円)の移籍金が支払われる構図だった。しかし今夏はその額が一気に倍、もしくは3倍に膨れ上がった。

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