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筑波大学、天皇杯16強敗退も“ジャイキリ”連発で残した衝撃。青年たちが経た大冒険

text by 藤江直人 photo by Getty Images

大学サッカーとの歴然とした差を痛感

 準備をしてきたからこそ、思い切って戦える。前線からアグレッシブなプレスをかけ、小気味のいいパスワークを展開し、意外性に富んだプレーが随所に散りばめられる。

 アルディージャ戦も後半に限ればシュート数は8対4と、直近のリーグ戦から先発を10人入れ替えたJ1クラブを圧倒した。中野のシーン以外にも決定機を4度も作って、バスツアーを組んでゴール裏のスタンドを埋めた応援団を熱狂させた。

 それでも、4試合目にして初めて先に許した失点を取り返せなかった。前半28分に与えたPK。クロスのこぼれ球にFW清水慎太郎が難しい体勢からボレーを放つ。予想していなかったのか、とっさにシュートを背中で防ごうとしたDF山川哲史の右手にボールが当たってしまった。

 ただ、小井戸監督は自らを責めても、すべてを出し尽くした選手たちには目を細める。あわや同点の中野のシュートに対しても、質問が出た瞬間から笑いながら「何も言うつもりはありません」と審判団の判定を尊重した。その一方で、こうつけ加えることも忘れなかった。

「本気で準備をして、本気で臨んだけれども負けた。この経験が収穫だと思う。ここから選手たちが何を感じて、次にどのようなリバウンドを見せてくれるのか、というのを私も楽しみにしたい」

 実際、選手たちは一戦ごとにさまざまな経験を積み、新たな力に変えてきた。たとえば3回戦までの3試合で5ゴールをあげながら、中野は大学サッカーとの歴然とした差を痛感させられていた。

「関東大学リーグでは『抜けた』と思うところでも、プロの選手は速く詰めてくるし、強く体を当ててもくる。それを体感できただけでも、自分としては成果になったと思っています」

 ひるがえって、件のシュートのシーンはどうだったか。相手のパスがずれたところを拾い、すかさず前を向いた。アルディージャのセンターバックで、最近は2試合連続してJ1でも先発出場している24歳の山越康平が間合いを詰めてくる。

 果たして、中野が軽やかなステップを右に刻んでプレッシャーをかわすと、山越はアプローチをあきらめてブロックする体勢に変えている。シュートを打つまでの過程にも、中野は確かな手応えを感じていた。

「今日に関してはひとつ外す、あのシーンで言えば山越選手を外すところはできてきているので。自分としては、ちょっとは積み上げられてきているのかな、という実感はありますね」

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