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野沢拓也と田代有三、豪州でホットライン復活。二人三脚で上るAリーグへの階段

text by 植松久隆 photo by Yuzo Tashiro, Wollongong Wolves FC, Getty Images

「引退するかどうかまで含めて色々と考えた」(野沢)

 ウーロンゴン側に許可を貰い、関係者だけの閑散としたスタジアムで非公開の練習試合を取材することができた。主催の武漢側の公式な許可を取っていないので、試合の詳細は書かないが、元浦和レッズのラファエル・シルバ擁する武漢は歴戦の強者である2人が素直にその実力を認めるほどの完成度。

「はっきり言って、Aリーグに入っても充分にやれるレベル。全く穴が無い良いチーム」(田代)という相手に、ウーロンゴンはチームとして厳然たる実力の差を見せつけられた。2人がプレーした前半だけで4失点。コンディションが整っていない2人は、ともに決定的な仕事をできずに前半で交代。残念ながら、野沢の「豪州デビュー」は到底本人が納得するレベルのものとはならなかった。

 試合直後の野沢は、不満そうな表情を浮かべて、「いや、何もできなかった。ボールも出てこないし…」と何度も頭を捻った。オフ明け初戦、しかも合流直後の試合というシチュエーションでも、自分のパフォーマンスだけでなくチームとしての結果にも納得がいかないのは、長年常勝・鹿島の屋台骨を支えてきたプライドのなせる業だろうか。

「外国人枠の選手なのだから、こんな状況下でも違いを見せつけなきゃいけなかった」と反省しきりの先輩を「開幕前のこの段階で、これだけのレベルのチームとやれたことに意味があるし、これからうち(ウーロンゴン)も上がっていけば、すぐにタクさんにボールを集めなきゃいけないというのは、他の選手もすぐに分かりますよ」と後輩の田代がしっかりフォローする。

 一旦宿舎に戻った2人と日本人経営の地元の焼き肉店で合流して、さらに話を聞くことができた。

「本当の話、(仙台を退団した後)それこそ引退するかどうかまで含めて色々と考えた。Jリーグでは、今までのキャリアで『ある程度、やり遂げた』って気持ちもあったし、もしまだチャレンジするなら他(海外)でって気持ちもあった。そんな時に、今回の(田代)有三の誘いがあって、彼がそれだけいいって言うなら、思い切って挑戦してみようかなって気持ちになった」

 田代はそう語る野沢の横顔を眺めながら頷く。

「とにかく、このクラブが勝つためには、僕が取れるだけの点を取らなきゃいけない。そのためのパスの安定供給源が何としても必要だった。そう思った時に、僕の中ではタクさん(野沢)しか考えられなかった」

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