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極東ロシアクラブを支える“東洋”の医学。世界一過酷でも…選手を惹きつける「家」の一体感

日本から直行便で3時間。極東ロシアのハバロフスクに本拠地を置くクラブが、創設以来初めて同国トップリーグを戦っている。アウェイ遠征は毎回が大陸横断のような大移動となる「世界一過酷」とも言える環境。それでもSKAハバロフスクには選手が「家」と語る魅力があり、困難を乗り越える秘訣があった。(取材・文:舩木渉)

シリーズ:世界一過酷!? 知られざる極東ロシアサッカー text by 舩木渉 photo by Wataru Funaki, Keisuke Goto

スタジアムは旧ソ連時代の遺産。それでも1部に昇格し…

SKAハバロフスク
SKAハバロフスクの本拠地レーニン・スタジアムは試合だけでなく練習にも使用される。ピッチは人工芝だ【写真:後藤啓介】

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 8月25日の午前中、ついに目的地ハバロフスクに到着した。どんよりとした曇り空で、こぢんまりとした空港は人でごった返していた。

 愛想の良い改札係の老婦人に目的地を伝え、市内へ向かうおんぼろのバスに乗り込む。ハバロフスクの空港は市内中心部から離れた場所にあり、ガタガタと揺れ、いまにも壊れそうなバスに30分ほど乗らなければならない。乗客には明らかにカタギではないと思われる者もいる。当然スマートフォンを操作する姿など見せられない。警戒レベルはMAXだ。

 その日は18時から行われるSKAハバロフスクの試合2日前の練習を見せてもらえることになっていた。バス停から徒歩5分ほどの宿に着いて休憩していたら、いつの間にか練習開始1時間前になっていた。

 事前に調べた情報では、クラブの名前に冠された「SKA」は「陸軍スポーツクラブ」のことを指すとのことだった。同じく赤と青を基調にしたユニフォームで知られ、かつて日本代表の本田圭佑もプレーしたCSKAモスクワと同じ陸軍の流れをくみ、両クラブは友好関係にある。とはいえ昨季「SKAエネルギア」から「SKAハバロフスク」へと名称を変更し、エンブレムなどのブランドも一新したことからも分かる通り、現在では陸軍とのつながりは薄くなっているという。

 SKAハバロフスクは普段から試合会場と同じスタジアムで練習を行っている。アムール川沿いにある公園の中に現れたレーニン・スタジアムは、1956年に建設されたごく普通の陸上競技場だ。1万5000人を収容で、国際規格の大きさのピッチと4本の照明塔、大型ビジョンを備えている。いまや旧ソ連時代の指導者の名前を冠したスタジアムがロシアリーグでほとんど使われることはなくなり、ここは例外中の例外と言える。やはり西側から遠く離れているが故の“遺産”なのだろうか。

 周囲を歩く人に尋ね廻ってようやく見つけたレーニン・スタジアムの関係者入り口に足を踏み入れると、出迎えてくれたのは瘦せ型ですらっと背の高い40代前後の男性だった。

 彼の名はアンドレイ・アンフィノジェントフ。クラブ内でも数少ない英語を話せる広報部門のスタッフで、日本からずっと連絡を取り合っていた人物である。以前バレーボール関連の仕事をしていて日本への渡航経験もあるというアンフィノジェントフ氏についていき、すでに練習が始まっていたピッチへと降りると、クラブの現状について少しだけ話をしてくれた。

「うちはお金がなくて、選手にも十分な給料を払ってあげられていないから…。このスタジアムの人工芝は今年1部に昇格したことで貼り替えたばかりなんだが、数年ぶりだったと思う。観客席も昇格したことで自治体の支援を受けて新しく増やすことができた」

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