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日本代表 6年前

大切な“お笑い担当”槙野智章の原点。挫折とともに歩んだキャリア、憧れ続けたW杯は目前

text by 藤江直人 photo by Getty Images

「W杯は夢ですけど、夢のまま終わらせたくない」

 槙野にとって、ワールドカップ本大会への挑戦は3度目になる。岡田武史監督のもとで臨んだ2010年の南アフリカ大会は、4月7日のセルビア代表との国際親善試合(ヤンマースタジアム長居)で途中出場を果たしているものの、約1ヶ月後に発表された23人の最終メンバーには入れなかった。

 2010年8月に発足したザックジャパンには、アルゼンチン代表から金星をあげた初陣から招集され続けた。しかし、いざブラジル大会が開催される2014年に入ると、3年以上にわたって紡がれてきた軌跡が突如として途切れた。

「年齢的にもラストチャンスだと自分のなかでは思っているし、その意味でも最後の最後のところが、僕にとって課題だと思う。ワールドカップは夢ですけど、夢のまま終わらせたくない」

 今月11日に31歳になった槙野は、まだ見ぬワールドカップへ、胸中に秘めてきた熱き思いを明かしたことがあった。そして、過去2大会において鬼門と化してきた、ワールドカップを直前に控えた段階でのスタートラインに立った。

 レッズがアジア王者として出場した、FIFAクラブワールドカップ2017と日程が重複した関係で招集されなかった昨年末のEAFF E-1サッカー選手権を除けば、昨年10月以降に行われた6つの国際親善試合ですべてセンターバックとしてフル出場してきた。

 折しも日本がロシア大会出場を決めてから、昌子源(鹿島アントラーズ)からレギュラーの座を奪い取った。たとえば、昨年10月6日のニュージーランド代表戦でセンターバックコンビを組んだ吉田麻也(サウサンプトン)は、ジョーク混じりにこんな言葉を残している。

「隣でプレーしていて、槙野選手からは『ワールドカップに出たい』という強い気持ちが、試合を通して伝わってきました。お笑い担当ではないんだよ、という意思をすごく感じました」

 ロシアワールドカップへ向けて低空飛行を続けたハリルジャパンの戦いのなかで、槙野は昨年11月のブラジル代表戦で一矢を報いる、今年3月のウクライナ代表戦では一時は同点に追いつくゴールを、ともにコーナーキックからのヘディング弾で決めた。

 本職の守備でも武器であるフィジカルの強さを生かし、球際の攻防で強さを発揮。不必要なファウルを与える、あるいは前がかりになるあまりに背後を突かれる悪癖も顔をのぞかせなくなった。30歳を超えて急成長を遂げてきた要因を、槙野は2010年以降の8年間という時間に求めた。

「僕にとっては悔しい時間であり、もどかしい時間でもあったけれども、そういう(ワールドカップに出られなかった)結果を受けて前進しなければいけない、8年間を無駄にしてはいけないと自分に言い聞かせてきました。そして、最近よく思うんです。挫折を味わった人間は強い、と。

実際、僕はどん底まで落ちて、ここまではい上がってきた自信がある。どん底がいつなのか、と言われても本当にたくさんありますし、失敗や苦しい時間を味わった選手が強くなれると思っている。その選手にしかわからない経験がありますし、自分はそうした経験を数多く積んできたので」

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