ブラジルは出し尽くした。ベルギーの勝利に不思議なし
アディショナルタイムは5分と表示された。ブラジルは最後の猛攻に出たが、ドラマを生み出すことはできなかった。シュート数26:8、枠内シュートでも9:3と大きく上回りながら決め手を欠いた。個々のクオリティも層の厚さも、集団としての強さも今大会への並々ならぬ思いも、優勝候補筆頭と呼ぶに相応しいものだった。オウンゴールでビハインドを背負ったのは誤算かもしれないが、運が悪かったということにはならないだろう。
王国を倒すためにプランを用意し、個の質でまったく劣らないベルギーが勝ったことを不思議に思う者もいない。ブラジルは全てを出し尽くした。優勝する可能性もあったが、ベスト8が限界だとしても納得の敗戦だった。
この大会にかける思いではベルギーも負けてはいなかった。アディショナルタイム、アザールは残り少ないパワーを放出している。押し込まれる中、10番はボールを持ったらドリブルで前進。たった一人でキープし、相手はファウルで止めるしかない。そのドリブルはゴールを奪うためではなかった。時計の針を進めるための、味方に一息つかせるためのものだった。
彼を筆頭とした“黄金世代”は大きな期待を背負いながら、2014年ブラジルワールドカップ、EURO2016ともにベスト8止まりだった。大会を席巻する力を秘めていながら、ダークホースの域を抜け出せなかった。そんな負の歴史を払拭するかのような、アザールの意地が凝縮されたラスト5分だった。
そして今回、ついに歴史を動かした。ベルギーサッカー史上最も頂点に近いチームであることは間違いない。16年9月のスペイン戦を最後にこれで24戦負けなしだ。次の関門はフランス。カウンターの名手同士の対戦となる。
(文:青木務)
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