久保建英に光明を見た。熟練記者が記すその理由とは? 常人離れの妙技に見る育成の未来【コパ・アメリカ】

日本代表は現地時間17日、コパ・アメリカ2019(南米選手権)のグリープリーグ第1節でチリ代表と対戦して0-4と敗戦を喫した。この試合で大きな注目を集めたのがMF久保建英だった。チームは大敗し、本人も大きな見せ場なく不発に終わったが、日本代表を長く取材する記者は久保のプレーに光明を見たという。久保の存在は日本サッカー界に何をもたらすのか。(取材・文:元川悦子【サンパウロ】)

2019年06月18日(Tue)17時12分配信

text by 元川悦子 photo Shinya Tanaka
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なす術を失った2失点目

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トップ下でフル出場した久保建英【写真:Getty Images】

 大迫敬介、原輝綺、杉岡大暉、中山雄太、前田大然、上田綺世の6人がA代表初陣というフレッシュな編成で、17日のコパ・アメリカ2019初戦・チリ戦に挑んだ日本代表。その陣容で森保一監督が不慣れな4-2-3-1のフォーメーションを選択したのは想定外だった。

「今回招集した選手を見た時にこの形で戦おうと決めた」と指揮官は話したが、チリが3トップで来るという戦術的要素に加え、右ウイングバックの専門家が今のチームにいないという事情もあって、その判断を下した模様だ。

 右サイドアタッカーの位置に前田を置いたのも異例中の異例。「相手のサイド攻撃が優れているので、そこでいい守備をしてカウンターを出したい」という狙いからサプライズ起用に打って出たが、狙いは的中するのか。久保建英、中島翔哉との連係面も含めて大いに注目された。

 指揮官の思惑は序盤こそ奏功したかに見えた。スロースタートのチリが引き気味に来たのが幸いし、日本はボールをつなぎ、意欲的に攻撃を組み立てる。久保と中島という個の打開力あるアタッカーが果敢な仕掛けを見せ、守備陣も冨安健洋が中心となって危ないシーンをしのぐなど、互角とも言えるような戦いを見せていた。

 だが、前半途中から徐々にボールを持たせてもらえなくなる。

「個でガンガン抜いていくのは向こうの方が上だったし、ボールポゼッションも途中から握られてしまった。攻撃のバリエーションがすごく多くて、ワンタッチを使ったりのチームの崩しもうまかった。相手の創造性と臨機応変さに守備も攻撃も対応しきれなかった」とA代表初先発の久保建英も述懐する通り、チリとの力の差が如実に出始める。

 そして前半終了間際にCKから1点を献上。後半9分にも2点目を奪われると、日本はなす術を見出せなくなる。さらに2失点し、終わってみれば0-4の完敗。いきなりグループリーグ突破に暗雲が漂った。

「劣勢の時、たまにリミッターが外れる」

「チリとの攻撃の差があったことは認めないといけない」と森保監督も肩を落としたが、2015・16年大会連覇中の南米とU-22世代中心の若き日本とは目に見える以上の実力差があったのは確かだ。

 そんな中、数少ない光明の1つとなったのが、世界から注目を集める久保の小気味い仕掛け。後半20分、セットプレーの流れで中山からボールを受けた18歳のアタッカーは老獪なチリDF2枚を鋭いドリブルで抜き去り、左足を一閃。見る者の度肝を抜いたのだ。

 惜しくもシュートはサイドネットに飛び、本人も悔しがるしかなかったが、モルンビースタジアムの観衆のどよめきはこの日、最も大きかったと言っても過言ではない。

「結構チームが劣勢になっている時、たまにリミッターが外れるというか、何も考えずにスルスルっと抜ける時がある」と本人は話したが、無意識に世界をあっと驚かせる妙技をコパ・アメリカという大舞台で出せるのは、やはり常人離れしている。レアル・マドリーのスカウトの目が間違っていなかったことを、試合に集まった世界各国の報道陣や関係者、ファンの多くが改めて実感したのではないか。

 久保のひらめきと個の打開力という傑出した武器は天賦の才に他ならないが、小学校から中学にかけての「ゴールデンエイジ(一生に一度、訪れる神経発達の著しい時期)」をバルセロナFCのカンテラで過ごしたことも大きいはずだ。

 同時期はサッカーのパーフェクトスキルを体得するのにベストなタイミングと言われ、ここで養った基本技術は選手キャリアの大きなベースになる。その極めて重要な時期に、彼は世界各国のスター候補生たちとしのぎを削り、切磋琢磨しあい、世界トップに上り詰めることだけを考えて努力を重ねた。その成果が18歳になった今、大舞台で表れたという見方をしてもいいだろう。

「国際経験がない」は言い訳にならない

0618kubo_tnk02「自分たちは決めきれなかった」と久保建英は反省する【写真:Getty Images】

 昨今はレアル・マドリーの下部組織所属の中井卓大も頭角を現してきて、「逆輸入選手」が日本サッカー界に刺激をもたらしつつある。だが、誰もが名門アカデミーに在籍できるわけではないだけに、日本国内の育成環境やアプローチ方法を見直すことも一案だ。

 日本にいても久保や中井のようなゴールデンエイジを送れる選手が増えてくれば、第2第3の久保が出てくる確率も上がる。久保の例をしっかりと分析・検証し、日本の育成にフィードバックしていければ、近い将来、日本が苦手な南米勢を打ち破ることができるかもしれない。そんな希望を感じさせてくれる背番号21の一瞬の局面打開だった。

 とはいえ、「向こうは決定的なチャンスを全て決めてきたのに対し、自分たちは決めきれなかった」と本人が反省するように、久保自身もフィニッシュの精度を上げていく努力がより一層、求められる。

 チリのエースFWアレクシス・サンチェスやエドゥアルド・バルガスらはここ一番で恐ろしいほどの冷静さを持ち合わせており、確実にひと蹴りを決められる集中力も兼ね備えていた。

 18歳の久保がその領域に到達するまでには時間がかかるだろうが、レアル・マドリーの一員になった以上、「A代表デビューしたばかりで国際経験がない選手」という言い訳は通らない。この悔しさを糧にして早急に改善策を見出さなければ、世界トップに上り詰めることはできない。その大きな一歩が中2日後で迎える20日のウルグアイ戦になれば理想的だ。

 次戦は強行日程となるため、2戦連続スタメンかは分からないが、ベンチスタートだとしても森保監督はどこかで彼を送り出すはず。18歳のアタッカーがその好機を生かして、得点力不足解消の布石を打てるか否か。大事なのはここから先の飛躍である。

(取材・文:元川悦子【サンパウロ】)

【了】

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