セレッソ・ロティーナ監督が語る日本サッカー「競争をもう少し学べば、一気に飛躍する」【インタビュー後編】

現在セレッソ大阪を率いるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、指導者として25年以上のキャリアを積み重ねてきた。その経験によって培われた指導哲学とはいかなるものなのだろうか。日本サッカーへの造詣の深さも垣間見られるインタビューをスペイン『パネンカ』誌のウェブ版から、許可を得て抄訳し掲載する。今回は後編。(取材・文:イバン・バルガス【パネンカ】、翻訳:江間慎一郎)

2019年08月06日(Tue)10時30分配信

text by イバン・バルガス photo Getty Images
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日本で感銘を受けたファンの文化

東京ヴェルディ
東京ヴェルディには勝利した後、ファン・サポーターと一緒にラインダンスを踊る文化がある【写真:Getty Images】

☆前編はこちら☆

――日本にやって来たとき、東京ヴェルディでまずはあなたたちのスタイルを教え込もうとしたのですか? それとも日本にあるものに適応した?

「2つの融合だよ。私たちはスペインに存在する優れたものを持ち込もうとしたが、それと同様に彼らの持ち味を生かそうとも試みた。フットボールのアイデアはもちろん私たちのものだが、しかし練習のやり方は大分変えたね。最初からボールを使った練習をすることに彼らはとても驚いていた。スペインで同様のことが起こったのは30年前であり、それまではあそこでも最初の数週間の練習を走ったり、フィジカルの調整に費やしていた。

フィジカルも大切だがそれは補足的なもので、技術及び戦術の方が重要だ。それをここの選手たちに説明したとき、彼らは理解に苦しんでいた。しかし事はうまく運んだ。人を説き伏せることにおいて、結果を出す以上の方法など存在しないというわけだ」

――選手たちにとって、慣れないことを受け入れるのは簡単なことではないしょうね。

「とりわけベテランたちが、ボールなしの走り込みをしていないためにシーズン後半戦に息切れを起こすのではないかと、私に進言してきたね。だが私たちは2シーズン連続で後半戦に強いチームだったし、そこでどのチームよりも勝ち点を獲得してきたんだ。そして今、1つの練習方法に慣れ親しんできたここの人たちも、少しずつ信じ始めるようになってきた。それはスペインでも同じだった。私が選手だった頃には、最初の15日間はボールに触れさせない監督がいたものだよ」

――日本のフットボールで印象的と感じるのは、その観客です……。

「どこのサポーターも私たちが欧州で聞き馴染みのある歌を持っている。アレンジはしているが、似通っているね。素晴らしいのは、勝とうが負けようがファンへの挨拶が義務になっていることだ。それと各チームに特有のダンスがあって、勝ったときにはファンとそれを踊らなければならないんだよ」

「日本人は金に目をくれず、とにかく向上を望んでいる」

ミゲル・アンヘル・ロティーナ
ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は東京ヴェルディで多くの若手を飛躍に導いた【写真:Getty Images】

――日本人は変化に対して寛容なのでしょうか?

「ああ。日本の文化や社会がそうなのだから、選手たちにも学ぶ意欲がある。12月はバケーションなのだが、選手たちは練習のためにスペインのチームを紹介してくれと言ってくる。私たちの国にやって来ることを求めて、なおかつ旅費や滞在費は自分持ちなんだ。その目的は単に練習するため、学ぶためなんだよ。

他チームの代表選手含め、多くの選手たちが自分にそうした機会があるかどうかを問い合わせてくる。私は休むべきだと言うんだが、彼らは勉強がしたいんだと返してくるね。日本人は金に目をくれずに、とにかく向上することを望んでいる。そこには目を引かれた」

――監督と選手の関係性は、スペインのものとは異なるということですか?

「選手は異なっている。ここの選手たちは何も物言うことがない。こちらから言うすべてのことを受け入れて、それを良いものとみなすんだ。しかし、それはフットボールではなく教育の問題だ。珍しい若者たちだよ。内気で、寡黙で、そして学ぶ能力がずば抜けている。

例を挙げれば、私はU-21、U-20、U-18代表で定期的にプレーする選手たちを擁していた。彼らはボールに空気を入れるため、1時間半前に練習場に着く必要があり、また練習後にはすべてのボールの空気を抜かなければならないんだ。もしベテランの選手が『スパイクを磨いておけ』と言えば、彼らはそうする。嫌な顔ひとつ見せずにね。そうしたことを習慣としているのが、彼らの文化なのさ」

――日本のフットボールは進歩していると感じますか?

「相当なものだよ。彼らの仕事をこなす能力は凄まじい。技術的に素晴らしく、競争するということをもう少しだけ学べば、一気に飛躍するだろう。今、私たちはドイツをはじめ、オランダ、さらにはスペインでも日本人選手を目にしている。今後数年間で、より多くの選手たちが欧州に渡って来るならば、彼らにまだ欠けている競争心を養うことができるはずだ。技術の質やフィジカルについては、彼らはすでに手にしている」

「日本のクラブは、スペインに目を向け始める」

ダビド・ビジャ アンドレス・イニエスタ
ダビド・ビジャ(左)やアンドレス・イニエスタ(右)のJリーグへの影響力は計り知れない【写真:Getty Images】

――日本のチームの陣容を見ると、外国人選手はブラジル人が多いですね。

「彼らはブラジルと特別な関係にある。貿易面も含めてね。だからブラジル人選手は、とても簡単に適応ができる。スペイン人選手たちの問題は適応力にあり、ブラジル人選手たちのようにはいかない。しかし、これから日本で少しずつ居場所を確保していくだろう」

――実際、ここ最近にはアンドレス・イニエスタとフェルナンド・トーレスがやって来ました。彼らは大きな影響を与えたのでしょうか?

「凄まじいよ。彼らがやって来てからというもの、スタジアムにはより多くの人が集まり、テレビでも試合が見られるようになった。彼らの到着はとても、とても大きかった」

――彼らの日本での初シーズンについて、どのように感じました?

「とても良かった。フェルナンド・トーレスは多くのゴールを決めたわけではないが、彼のチームにとっての重大な局面で大切なゴールを決めた。アンドレスについては、負傷によって離脱していた時期もあったが、彼がどのような選手であるかは皆が理解している。彼にしかできないアシストを記録していたし、加えてチームのために奮闘を見せている」

――ダビド・ビジャの上陸は、スペイン人選手たちのさらなる到着を促すものとなるのでしょうか?

「私はそう感じている。(ビジャの来日は)大切なことだ。つまるところ、モデルケースとなる選手たちは重要であり、彼らような存在がほかの選手たちに対する扉を開くんだよ。日本のクラブは、ブラジルの代わりにスペインに目を向け始めるだろう」

セレッソで目指すもの。情熱は尽きることなく…

ミゲル・アンヘル・ロティーナ
ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督はセレッソ大阪を次のステージに導けるか【写真:Getty Images】

――J2に所属する東京ヴェルディで2シーズンを過ごしたあなたは、今季からJ1のセレッソ大阪と契約を結びました。目標とするものは?

「彼らはアジアチャンピオンズリーグ出場を求めている。日本のリーグはスペインのものとは違う。チーム間の差は私たちの国より小さく、2位か3位だったチームが翌シーズンには持ちこたえられなくなるという問題を抱え、逆にひどかったチームが翌シーズンに3位以内に入ることだってある。いつもそういったことが起こるんだよ。

外国人選手たちは希少であるために補強を的中させなければならず、なおかつ負傷者も出さないようにしないと……。いつも言っているんだが、例えばスペインで上位6チームを除外するとすれば、一体誰がリーグを勝ち取るのだろうか? アトレティック・デ・ビルバオが優勝することもあれば、セルタ、またはヘタフェが勝つときもあるだろう……。そうなれば、ちょっとした日本のリーグ戦だね。私が話しているのは質ではなく、拮抗しているかどうか、ということだ」

――あなたは、2013年末にスペインから去ったロティーナと同じ人物ですか?

「メンタリティはずいぶん変化した。なかんずく日本にいることでね。もし健康で、情熱があるならば、たとえ80歳でも働かなくてはいけないという気づきを得たんだ」

――現役を退いた31歳のロティーナに対して、これから指導者として経験することを語ったならば、どんな反応を見せるのでしょうか?

「フットボールはありとあらゆる面で多くのものを与えてくれた。何よりもスペインだけでなく、世界中の人々と知り合うことができたんだ。そこには大きな価値がある。世界には素晴らしい人たちがいるのだと理解することができた。フットボールがなければ、そうした人々を知ることはかなわなかったろう。このスポーツからは喜ばしいものばかり与えてもらった。苦しいことだってあるが、辛い時期でさえかけがえないものだ」

――辛いときにこそ、人は成長すると言います。

「ああ。だが辛い時期は家族としか過ごすことがなく、反対に良い時期にはわんさかと人が現れるものだね」

――叶えるべき夢として、何が残っているのでしょうか?

「たくさんあるよ。何よりも、より良い監督となるための道が存在している。向上するため、より良い監督となるため、進歩を果たすためには、情熱を持っていなくてはならない。それによって、くさぐさの大切なものをこの手につかめるのだと思う」

(取材・文:イバン・バルガス【パネンカ】、翻訳:江間慎一郎)

☆前編はこちら☆

ミゲル・アンヘル・ロティーナ
1957年6月18日生まれ、62歳。スペイン・バスク州ビスカヤ県出身で、現役時代はログロニェスやカステジョンなどでストライカーとして活躍。31歳で引退した後は指導者として古巣ログロニェスやヌマンシア、オサスナ、レアル・ソシエダ、デポルティボ・デ・ラ・コルーニャ、ビジャレアルなどの監督を歴任。2005/06シーズンにはエスパニョールをコパ・デル・レイ優勝に導いた。近年はスペイン国外に活躍の場を移し、キプロスのオモニア・ニコシア、カタールのアル・シャハニアを経て2017年に東京ヴェルディの監督として来日。現在はセレッソ大阪の監督を務める。

【了】

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