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日本代表か、ドイツ代表か。「どっちにするか。ちょっと楽しみ」。18歳が燃やす謙虚な野心【インタビュー(4)】

今季、ドイツ・ブンデスリーガでプレーする日本人選手は激減した。フランクフルトの長谷部誠、鎌田大地、ブレーメンの大迫勇也。しかし、もう1人日本人の血を引く選手が“ブンデスリーガー”となるために奮闘を続けている。その名は、18歳のアペルカンプ真大(シンタ)。デュッセルドルフの下部組織でプレーする日独ハーフのMFに全4回のインタビューを敢行した。今回は第4回。(取材・文:本田千尋【デュッセルドルフ】)

text by 本田千尋 photo by Dusseldorf

東京五輪日本代表候補のラージリストにその名も

アペルカンプ真大
フォルトゥナ・デュッセルドルフに所属するアペルカンプ真大【写真提供:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

インタビュー第3回はこちら

 18歳というタイミングで、キャンプや試合に呼ばれてトップチームに絡めていることに対して、アペルカンプは「早いとは思っていないです」と言う。

「順調ですし、今が一番いいタイミングですね。もちろん他のチームを見ても、自分の年代の選手は試合に出ているか、僕みたいに今だんだんとプロの練習に参加している。今は、順調だと思っています。引き続き、今シーズン中の練習はトップでやると思いますので、それはもちろん良いチャンスです。今シーズン中にトップと契約を交わすことも1つの目標ですね」 

 まだ契約はU-23の段階だ。トップとは交わしていない。今季の主戦場は4部相当のレギオナルリーガ西地区になる。

「ブレーメン戦でベンチ入りした時は、もちろんU-23の試合には出られなかったです。今後は、トップのベンチに入ることもいいですけど、それで試合に出なかったらあまり意味がないですし…やっぱり僕は若い選手なので、試合に出ないといけない。なのでU-23で試合に出た方がいいと思います。

 もちろんブレーメン戦で呼ばれたことは嬉しいです。1回目でしたし、ブンデスの雰囲気を味わえたことは、本当に良かったです。でも、これが2、3、4回、5回くらい続いて、逆に90分試合に出られなかったら、他の選手より試合に出ていないことになるので、試合勘がなくなってしまう。そうなったらやっぱり良くないので、U-23でプレーしたいですね」

 1度ブンデスリーガの試合に帯同したぐらいで、浮かれることはない。客観的に自分を見つめ、できること、できないことを把握している。そして現状に満足することなく、さらに上を目指している。“謙虚な野心家”——、それがアペルカンプ真大なのだ。

 関係者によると、アペルカンプは、東京五輪日本代表候補のラージリストに入っているという。

今の一番の目標は “ブンデスリーガー”になること

 だが、8月に発行された季刊誌『フォルトゥナ通信』の41号に掲載されたインタビューの中では、東京五輪世代に含まれていることに対して「正直それに関しては全く意識していないです」と答えている。なぜなのだろうか。

「今は東京五輪が一番の目標ではないです。今、一番の目標は、このフォルトゥナでプロのトップチームの練習に参加して、怪我をせずにU-23の試合に出ることが一番の目標です。もちろん2020年のオリンピックは東京でやりますし、すごいことですけど、今はここ、フォルトゥナで成長することに集中したいですね。オリンピックのことは全く考えていないし、考えたくないです」

 もちろん日本代表に全く興味がないわけではない。だが、アペルカンプは日独ハーフ。日本だけでなく、ドイツの国籍も持っている。

「最終的にどっちの国籍にするか、21歳の時に決めないといけないですし、まだ2年半くらいありますけど、そこがちょっと楽しみですね。どっちにするか。その選択によってもちろん、日本とドイツ、どっちの代表に出られるのか決まるので、そこが楽しみです」

 アペルカンプは、“第三の転機”となる瞬間を思い浮かべたのか、朗らかに笑った。
 笑顔は、18歳の若者らしかった。

 今の一番の目標は、平たく言ってしまうと、“ブンデスリーガー”になること。

「今はここフォルトゥナで、練習でいいパフォーマンスを出して、周りからコイツはいい選手だなあって思ってもらえるようにプレーして、トップと契約することが目標です。もちろんU-23の試合でも結果を残したいです。それで代表にも呼ばれたら、もちろん嬉しいですね」

華やかさはない。それでも多大な経験値が得られるレギオナルリーガ

アペルカンプ真大
アペルカンプ真大は「今一番意識しているのは、ここフォルトゥナです」と話す【写真提供:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

「代表」というのは、日本代表のことだろうか、それともドイツ代表のことだろうか。アペルカンプは、まだアンダー世代のドイツ代表に招集されたことはない。

「日本とドイツのハーフなので、ドイツのアンダーの代表にも1回か2回、行けたらいいですね。でも、それはどちらでもいいです。全く気にしていない。代表にも呼ばれたら、もちろん嬉しいですけど、今一番意識しているのは、ここフォルトゥナです」
 
 9月7日、秋の冷たい雨が降るパウル・ヤネス・シュタディオンーー。

 レギオナルリーガ西地区の第7節。フォルトゥナ・デュッセルドルフU-23は、ホームにSCフェールを迎えた。アペルカンプは8番のポジションで先発出場する。

 背番号10を背負う日独ハーフは、前々節のU-23シャルケ戦、前節のU-23ドルトムント戦と2試合連続でゴールを決めてきたが、この試合ではなかなかボールを貰うことができず悪戦苦闘。ペナルティエリアの近辺では、シンプルかつ正確なプレーでチャンスを演出したが、味方もアペルカンプのお膳立てを決め切ることができない。

 試合運びという点では、相手の方が上だった。フェールは年齢制限のない、いわば“大人のチーム”。セットプレーなど要所要所できっちりとゴールを決めてきた。周りが見えていない選手もいたフォルトゥナU-23は、0-4で完敗した。

 試合後、アペルカンプは、次のように振り返った。

「30歳以上の経験がある選手のいるチームとこういう試合をやって、僕たち若いチームは、本当にたくさんのことを学べると思います。0-4で負けても、一番大事なことは前を向いて、この試合をしっかり分析することですね。自分にとっては、思うようにいかない試合も大事だと思います。今はU-23で一試合一試合やっていくことが、この先に繋がると思っています」

 そこはブンデスリーガのように華やかな世界ではない。スタジアムは古く、観客はまばらだ。しかし、玉石混交のレギオナルリーガだからこそ、得られる経験がある。将来性のある若手と、酸いも甘いも知る大人が混じる雑多な世界だからこそ、学べることがある。

 18歳らしからぬ思考を巡らせながら、“謙虚な野心家”は、心を静かに燃やした。
 いつの日か、そう遠くない未来に、ブンデスリーガのピッチに立つために。
 
(取材・文:本田千尋【デュッセルドルフ】)

【了】

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