内田篤人が発した「みんな鹿島らしい選手になってきた」の真意。三竿健斗へと伝授される鹿島の魂【この男、Jリーグにあり】

明治安田生命J1リーグは26節を終え、首位・FC東京を1ポイント差で鹿島アントラーズが追走している。「リザーブの選手というのはいない」とキャプテンを務める内田篤人は鹿島らしさを表現する。さらに、三竿健斗の「誰が出てもこのチームは勝たなければいけない」と語るその言葉に、「鹿島らしさ」は、脈々とチームに受け継がれていることが感じられるだろう。(取材・文:藤江直人)

2019年09月25日(Wed)10時40分配信

シリーズ:この男、Jリーグにあり
text by 藤江直人
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「リザーブの選手というのはいない」

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鹿島アントラーズでキャプテンを務める内田篤人【写真:Getty Images】

 聞き耳を立てなければスルーさせてしまうほどのさりげないトーンで、それでいていま現在の鹿島アントラーズを的確に表現するキーワードを、キャプテンのDF内田篤人が口にした。

「ウチのメンバーに、リザーブの選手というのはいない」

 先発としてピッチへ送り出される11人だけではない。リザーブの7人も、そして競争の末に残念ながらベンチに入れなかった他の選手のすべてがともに戦っている、と言いたかったのだろう。

 先発も固定されているわけではない。リーグ戦の軌跡を振り返れば、開幕から全26試合に出場しているのはセルジーニョだけ。しかし、チームトップの10ゴールをあげている24歳のブラジル人アタッカーは、6試合で後半途中から出場。プレー時間は2000分に到達していない。

 内田自身は古傷でもある右ひざを痛め、4月から長期離脱を強いられてきた。8月14日の栃木SCとの天皇杯全3回戦で復帰し、同下旬からはACLとリーグ戦、そしてYBCルヴァンカップでもベンチ入りメンバーに名前を連ね始めた。

 復帰後に公式戦のピッチに立ったのは栃木戦と、今月1日の清水エスパルスとの明治安田生命J1リーグ第25節の2度。ともに大量リードを奪った後半の数分間で、合計のプレー時間も11分あまり。それでも、内田が必死に戦っている姿はいつしかアントラーズの名物になった。

「前に出ちゃうので言ってください、早めに注意してもらってまったく問題ありませんと、第4審判員には言っているんですけど。でも、やっぱりチーム全体で勝つ、となっちゃうよね」

 警告の対象になりかねない行為だと理解していても、アントラーズが劣勢になったときにはベンチ前のテクニカルエリアに出て、仲間たちへ身振り手振りで指示を送ってしまう。タッチライン際にまで身を乗り出す姿に、スタンドで声をからすファンやサポーターも共感を覚えるようになった。

内田篤人を呼び戻した理由

 第4審判に注意され、怒られることもある。だからこそ試合前に第4審判員への挨拶を欠かさないと内田は苦笑するが、それでも無意識のうちに体が動く。首位・FC東京をホームに迎えた9月14日の大一番では、内田に続くようにリザーブのGK曽ヶ端準、MF遠藤康もベンチ前で指示を飛ばした。

「時間の稼ぎ方とかは、気がついた選手が言えばいいこと。経験のある選手、ソガさん(曽ヶ端)やヤス(遠藤)を含めて、ベンチの一体感というものがすごく大事なので。苦しいときにピッチのみんながベンチの顔を見て、ベンチの声を聞くことで走れるのならば僕は声を出しますよ」

 一体感を強調する内田はドイツのシャルケ、ウニオン・ベルリンをへて、昨季から実に7年半ぶりに古巣アントラーズに復帰した。違約金が発生するのを承知のうえで、30歳になる直前の内田を獲得した理由を、鈴木満常務取締役強化部長はこう語ったことがある。

「(小笠原)満男が試合に出られる機会がだんだん減ってきたなかで、満男の次の世代で鹿島の伝統や、試合をコントールしてチーム全体を見ながらバランスを取るような役割を演じることも含めて、そういう存在がまだ必要だという状況も(内田)篤人を呼び戻した理由のひとつですね」

 アントラーズのチーム作りは、すべてのJクラブのなかで異彩を放つ。Jリーグが産声をあげた黎明期に土台を作った神様ジーコのイズム、「敗北を頑なに拒絶する勝者のメンタリティー」と「チームは家族」という意識を、1996年から強化の最高責任者を務めている鈴木常務取締役が受け継いできた。

 もっとも、フロントに加えてピッチのなかでも伝承者が必要になる。秋田豊や本田泰人が最初に握ったバトンを、小笠原満男や曽ヶ端準から誰に受け継がせるのか、という点で問題が生じた。内田や大迫勇也、柴崎岳と候補にあがった生え抜き選手たちが次々とヨーロッパへ新天地を求めた。

「サッカー人生は一回限りだし、選手の夢でもある海外移籍を止めるつもりはありません」

 日本サッカー界に訪れ、年々激しくなる潮流を鈴木常務取締役は努めて肯定的に受け止める。昨夏にDF植田直通、昨オフにDF昌子源、そして今夏にはDF安西幸輝、MF安部裕葵、FW鈴木優磨が海を渡り、昨季限りで小笠原もユニフォームを脱いだ。必然的に内田の存在感が増していった。

「みんな鹿島らしい選手になってきた」

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在籍4年目の三竿健斗【写真:Getty Images】

「全員が目の前の試合に対して最善の準備をしますし、常にいい競争があるなかで、全員がいい危機感をもって練習に臨んでいる。あと、タイトルを取らなければ何の評価も与えられないクラブなので」

 こう語るのはボランチの三竿健斗だ。東京ヴェルディから加入して4年目。昨季から間近で薫陶を受けてきたからか。夏場になって内田が何度も口にする「一体感」を、内田や副キャプテンの遠藤、MF永木亮太がピッチに立たないときはゲームキャプテンを担う23歳も肌で感じ、強調するようになった。

「いまのチームの一体感や雰囲気は、すごくいいものがある。なので、この一体感をどんどん大きくしていって、最後にみんなで笑ってシーズンを終えられるようにしたい」

 ジーコイズムで言えば「敗北を拒絶するメンタリティー」がタイトル独占、そして「チームは家族」が一体感とイコールになる。最初に黄金時代を迎えた1990年代後半も、紅白戦で一触即発のムードが漂うのは日常茶飯事だった。三竿が口にした「いい競争といい危機感」に通じると言っていい。

 個人的に何かをした、と言われることを内田は嫌がる。ただ、2007シーズンから達成した前人未踏のリーグ戦3連覇で不動の右サイドバックを務め、ピッチの上で小笠原たちから魂を伝授された内田の一挙手一投足、そして伝統と経験が凝縮された背中は次の世代への羅針盤となってきた。

「これまので積み上げというか、積み重ねというか、鹿島らしさというか。そうしたメンタルに新しい選手たちがフィットしていく部分でも、今シーズンは馴染むのが早いというか。みんな鹿島らしい選手になってきた気はするよね」

 今季から加わったMF白崎凌兵、MF名古新太郎、FW伊藤翔が躍動し、期限付き移籍から復帰したDFブエノも一本立ちした。開幕直後に加入したDF小池裕太、夏場に加わったMF小泉慶、FW上田綺世、FW相馬勇紀も伸び伸びとプレーする現状に鈴木常務取締役も目を細める。

 加入2年目のDF犬飼智也、ユースから昇格して4年目のDF町田浩樹も然り。夏場に3人が移籍しても戦力がダウンすることなく、競争を勝ち抜いた末にいい選手が起用される状況を生み出し、タイトル獲得へ力強く近づいている理由は、新加入組を馴染ませている触媒、内田を抜きには語れない。

「タイトルを3つ取ったとしても…」

 そして、次世代のリーダーを拝命するのにふさわしいオーラをまといつつある三竿は、主力が次々と旅立った状況にも「誰が出てもこのチームは勝たなければいけないので」と前を見すえる。

「いまいるメンバーが『オレがやってやる』とみんな思っているし、僕自身も満男さんや源君がいなくなって、今年はいままで以上にやらなきゃいけない、と思っていたなかでまた選手が抜けた。さらに責任感をもってやれている、とは思っています」

 だからこそ、連覇を目指したACLにおいて夢半ばで、準々決勝で敗退したことは単なる悔しさだけでは終わらない。広州恒大(中国)とアウェイで0-0、ホームでは1-1とともに引き分けた。アウェイゴールの差で涙を飲んだが、アントラーズの辞書には「惜しい」という言葉は載っていない。

「このクラブはひとつでも多くのタイトルを取ることが義務づけられているし、たとえ3つ取ったとしても、ひとつ取れなかったことに満足することができないので」

 ACLを前にこう語っていた三竿も、忸怩たる思いを募らせているはずだ。FC東京戦で左ハムストリングの筋肉を損傷して、81分でピッチを去ることを余儀なくされた。精密検査の結果は約6週間の加療。広州恒大との第2戦で応援に回る側になっただけでなく、復帰は早くて11月上旬になる。

 ただ、追い込まれたときこそ、冒頭で記した内田の金言でもある「ウチのメンバーに、リザーブの選手というのはいない」が蘇ってくる。三竿も「出た選手が責任をもってプレーすることが、いい結果につながる」とチームメイトたちを信じ、自身は診断よりも早い復帰を目指していく。

 今季の始動時に掲げた四冠完全制覇が霧散しても、アントラーズに下を向くことは許されない。目標はおのずと国内三大タイトルに切り替えられる。リーグ戦では長くFC東京に独走を許していたが、直接勝利で白星をもぎ取ったことで、勝ち点差をついに1ポイント差にまで追いつめた。

内田篤人が語る優勝へ必要なものとは

「ジーコを含めた先輩たちが作ってくれた、基盤というものがあるとチームは崩れにくい。なので、優勝争いはできる。簡単じゃないけど、頑張ればできる。ただ、ここからタイトルを取るとなるとまた話は別。優勝へ必要なものを求めながら、残りのシーズンを戦っていくことも大事ですよね」

 昨夏にテクニカルディレクターとして古巣に復帰したジーコをはじめとする、アントラーズの先輩たちが築いてきたクラブの重厚な歴史に、内田は感謝と敬意を忘れない。そのうえで独特の表現で、残り8試合となったリーグ戦の覇権の行方をこうにらんでいる。

「追われる難しさをFC東京がわかっているかどうかは知らないけど、やっぱり追う方が楽だからね。僕らの背中が見える位置にまで来て、残りの試合で彼らにどのような重圧がかかるのか。やっとスタートラインに立った気がするけど、変な話、いい位置にいる気がします」

 現時点で最後となる、通算8度目のリーグ優勝を果たした2016シーズンのJリーグチャンピオンシップ決勝を制した瞬間にピッチに立っていた選手で、今季もコンスタントに出場しているのは永木とFW土居聖真だけになった。選手は大幅に入れ替わっても、しかし、内田を介して魂は伝授され、2017シーズンの最終節で連覇を逃して号泣した三竿に受け継がれようとしている。

 ラグビーワールドカップの関係で1週空いたリーグ戦は、次節は28日にホームで北海道コンサドーレ札幌と対峙する。10月に入れば川崎フロンターレとのYBCルヴァンカップ準決勝が待つ。何よりも25日には横浜F・マリノスとの天皇杯4回戦がキックオフを迎える。無念のACL敗退から1週間。負ければ終わりの一発勝負で、常勝軍団の覚悟と決意、そして真価が問われる。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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