マリノスはなぜこんなにも強かったのか。プライドが高い選手なし、後世に語り継ぎたいその魅力【週刊Jリーグ通信】

明治安田生命J1リーグ第34節、横浜F・マリノス対FC東京が7日に行われ、ホームのマリノスが3-0で快勝して15年ぶり4回目の優勝を飾った。アンジェ・ポステコグルー監督の下、攻撃的で魅力的なサッカーを貫いたことが注目され称賛されているが、一方で細部まで積み重ねてきた部分も見逃せない。派手ではないが、確実にチームの強さを支えたプレー、そして考えとは。(取材・文:下河原基弘)

2019年12月12日(Thu)10時53分配信

シリーズ:週刊Jリーグ通信
text by 下河原基弘 photo Getty Images
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最後の最後まで貫いた攻撃的サッカー

横浜F・マリノス
今季の明治安田生命J1リーグ王者に輝いた横浜F・マリノス【写真:Getty Images】

 終了のホイッスルが鳴り響くと、横浜F・マリノスの選手たちは大きなガッツポーズを作った。ベンチからも試合に出ていない選手たちが雪崩を打つように走り寄ってくる。抱き合い、喜び合う姿に、Jリーグ史上最多6万3854人のスタンドを埋め尽くした観客からは、大きな歓声と拍手が送られた。

「本当に、ありがとうございます。優勝しました。選手もスタッフも本当に自分は誇りに思います。そして、これだけのサポーターの皆様と優勝を分かち合えたことは本当にうれしいです」とアンジェ・ポステコグルー監督。

 FW仲川輝人が「1年しっかりこのスタイルでやってこれて、自分たちの力を証明できたのが今日の試合。優勝に値するチームだと誇れるし、このサッカーをやり続けてよかったと思います」と話せば、FWエリキは「今日感じたこの優勝、この雰囲気作りは魔法みたいな瞬間でした。本当に特別な優勝でした。感動的でした」と目を細めた。

 1位と2位の優勝をかけた、最終節の直接対決。最高の舞台が整っていた。4点差以上をつけられて負けない限りは優勝という有利な条件だったが、「我々はスコア関係なく、優勝を忘れて、この試合に勝つことしか考えてなかったです」というFWマルコス・ジュニオールの言葉通り、いつもと変わらぬ攻撃的なサッカーを貫いた。

 序盤こそFC東京の気持ちのこもった激しい当たりに苦しんだが、徐々に流れをつかむ。前半26分に、DFティーラトンのミドルシュートで先制。同44分にはFWエリキが技ありのゴールを決めて追加点を奪った。

 ハーフタイムに2枚の交代カードを切って勝負に出たFC東京も盛り返し、後半22分には連係のミスからペナルティーエリアの外に出ていたGK朴一圭が、FC東京FW永井謙佑を蹴って止めてしまい一発退場。1人少ない状態になったが、10分後にはMF遠藤渓太が50メートルのドリブルシュートを決めて決定的な3点目を奪い、勝負を決めた。

優勝を手繰り寄せる細かな意識

 この試合でも猛威を振るったマリノスの攻撃力。そしてDFチアゴ・マルチンスを中心にした能力の高い守備陣も機能し、これぞ王者という貫禄あふれるサッカーで優勝を勝ち取った。革新的な戦術、見るものを魅了するアグレッシブなプレー、速く鋭く圧倒的な攻撃、あの時の優勝チームはと、後々人々に語られるに十分な、シーズン通しての戦いぶりだった。

 ぶれない指揮官の信念、外国人選手の補強の妙、オーストラリア人指揮官の下で才能を開花させた日本人選手たちなど、優勝の理由はいくつもある。だが、あえて注目したいのは前半21分のマルコス・ジュニオールの、そして3点目の起点になったティーラトンらのプレーだ。

 0-0の前半20分過ぎ、敵ペナルティーエリアやや外のルーズボールで仲川がファウルを取られる。すると、少し離れた場所にいたマルコス・ジュニオールは、その地点に近づきボールの前をふさいだ。ほんの数秒、コンマ数秒かも知れない。だが、確実に相手の攻撃を遅らせたのだ。

 第31節の北海道コンサドーレ札幌戦でも、相手リスタートに対して少し距離があっても、きちんとボールのある地点まで行き、早い再開を阻む場面があった。

「相手チームは、そこで時間を与えると早くプレーしてしまうので、そこは監督、コーチ陣からもそういう指示を受けていました。なるべくそういう時に、自分が近くにいたら行って、簡単にプレーをやらせないようにしています。本当に簡単、細かいところですけど、すごく大事な部分だと思うのでしっかりやるようにしています」とブラジル人司令塔。

 札幌戦、背番号9はトップ下で攻守に相当動き回り足をつっていたが、このような動きを後半39分に交代するまで続けていた。負担は大きいだろうが「自分ももちろん動かなければ楽かもしれないけど、スペースを与えたら相手にやらせてしまうので。そういう部分ではチームのために、フォアザチームというところでやるようにしています」と、こともなげに話していた。

「プライドが高い選手もいなかった」

マルコス・ジュニオール
マルコス・ジュニオールは「プライドの高い選手がいなかった」と優勝の要因を話す【写真:Getty Images】

 逆に自分たちがファウルを受けた時などは、早いリスタートを常に狙っている節がある。それが結実したのが、この試合とどめの3点目だ。

 自陣深くでオフサイドを取ったマリノス。FC東京の選手たちが一瞬ボールから目を切り警戒を緩めた瞬間、近くにいたティーラトンは前に蹴りだした。実はその前に、前方にいた遠藤はパスを引き出すように動き始めていた。そこにボールが渡ると、一気にカウンターが成立。そのままゴール前までドリブルで運び得点につなげたのだ。

 強力な攻撃や個人能力に頼り切ることなく、攻守で細かいところまで整備され、共有されていることは特筆すべきところだろう。それは日々の練習から意識づけしていなければできないはずだし、その重要性を全員が理解して、常に実行できることに強さを感じずにはいられなかった。

 またマルコス・ジュニオールは、もう1つチームの強みを話した。「我々のサッカーは運動量が多くて、プレスしろとか走れとか求められるが、(普通は)こんなに走れないよと言うプライドの高い選手が何人かはいると思うけど、このチームには誰一人そういう選手はなかった。

 このチームはプライドが高い選手もいなかったし、監督のサッカーをしっかり信じてやったこと。日々の練習もつらかったんですけど、それを弱音はかずにやったことが、やっぱり一番の優勝の要因かなと思っています」と胸を張った。

能力だけでなく精神的な面でも優れた選手たちが、リスタートでも運動量でもそうだが、労を惜しまず全力で指揮官のサッカーに打ち込んだこと。それが優勝への道を切り開いたのだろう。

 来年に向け「自分たちは続けてやっていきたいと思います。この攻撃的なサッカーを止まることなく、やり続けることは確かです。チャンピオンになった翌年は簡単ではまったくないです。ですが自分は連覇をしたい、そういう気持ちは強く持っています」とポステコグルー監督。

 この素晴らしき指揮官と選手たちが、素晴らしいサッカーで2連覇を目指す。

(取材・文:下河原基弘)

【了】

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