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中島翔哉も力及ばず。必然だったポルトのEL敗退、反撃の兆候なきホームで強豪のプライドは失墜【EL】

UEFAヨーロッパリーグ(EL)ラウンド32・2ndレグが現地27日に行われ、レバークーゼンに1-3で敗れたポルトは敗退が決まった。他のポルトガル勢も軒並み姿を消し、かつてチャンピオンズリーグ(CL)優勝経験もあるポルトガルのビッグクラブとしてのプライドも粉々に打ち砕かれた。あまりの無策ぶりに、中島翔哉も本来の力を発揮しきれていない。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

開始早々に痛恨の失点

中島翔哉
【写真:Getty Images】

 欧州カップ戦のスタジアムの雰囲気は、普段のリーグ戦とは異なる場合が多い。より激しく大きな声援でホームチームを後押しし、同時に他の国からやってきた部外者たるアウェイチームに対し強烈なプレッシャーをかけるものだ。

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 だが、現地27日に行われたヨーロッパリーグ(EL)ラウンド32の2ndレグでレバークーゼンをホームに迎えたポルトのサポーターからは、特別な力を感じなかった。画面越しにもいつもの試合と変わらない、普通の平日ナイターゲームという印象だった。

 しかもポルトガルで平日18時前のキックオフは、多くのファン・サポーターが観戦を諦めるのだ。なぜなら同国のワーキングタイムは一般的に19時までで、仕事終わりにスタジアムへ向かっても試合に間に合わないから。よってナイトゲームは20時以降のキックオフでないと満足に観客が集まらない。そういった文化的側面も、17時55分キックオフだったレバークーゼン戦にマイナスの影響を及ぼしていたように思う。

 結果は惨敗だった。アウェイでの1stレグを1-2で落としていたポルトは、ホームで1-3という屈辱的な差をつけられてラウンド16進出を逃すことになった。後半開始早々の50分に2点目を奪われた直後、英語コメンタリーが発した“It’s over”(終わりだ)の一言は重く、終戦ムードのポルトが残りの40分間をこなすだけになった虚しさを端的に表していた。

 序盤から流れはアウェイのはずのレバークーゼンに持っていかれた。とにかく先に1点を奪ってイーブンスコアに戻したかったポルトはキックオフと同時に相手ゴールに攻めかかるが、その勢いはすぐに削がれ、10分に失点してしまう。

 ロングボールと斜め方向のランニングによる抜け出し、ドリブルでの中央突破と続けざまに危険に晒されたポルトのディフェンスラインは4バックが全員ゴール前を締めたが、それによって外側のカバーリングが追いつかなくなった。DFの視界の外にポジションを取ってフリーになったアルゼンチン代表FWルーカス・アラリオが、ケレム・デミルバイからのお膳立てを受けてやすやすとゴールネットを揺らす。一度はオフサイドと判定された2試合連続ゴールは、VARの介入によってオンサイドに修正され、無事に認められた。

後半からシステム変更に踏み切るが…

 これで勝ち抜けの可能性を残すために最低でも2点が必要になったポルトだったが、レバークーゼンに主導権を握られて防戦一方に。1stレグの4-1-4-1ではなく、今季4バックとともに併用してきた3-4-3で挑んできた相手の攻めに対応しきれなかった。

 レバークーゼンは両ウィングバックが高い位置をとってピッチの幅を広く確保し、3バックとともにパス交換でポルトの守備陣形を揺さぶった。サイドの選手を外側に引っ張り出し、セントラルMFは対面のポジションの選手がポジションを下げることで食いつかせる。すると3トップの選手がディフェンスラインと中盤の間にぽっかりと空く危険なスペースでボールを受けられるようになり、面白いようにボールが前へ進んだ。

 一方のポルトは守りの時間が長く、ホームにも関わらず前半のシュートは1本のみで、枠内シュートはゼロに終わった。ベンチスタートだった中島翔哉はルイス・ディアスが右太ももを痛めたため29分からピッチに立ったが、目立った仕事はできず。いつものようにボールを持てば積極的に仕掛けてファウルをもらい、セットプレーにつなげたが、決定機につながる場所ではいい形でパスを受けさせてもらえなかった。

 後半開始からセルジオ・コンセイソン監督が動いた。マテウス・ウリベを外して負傷から復帰したばかりのぺぺを投入し、システムを3-4-3に変更してレバークーゼンにミラーゲームを挑んだのである。ウリベが抜けたセントラルMFはオターヴィオが務め、右ヘスス・コロナ、左アレックス・テレスと両ウィングバックに崩しのキーマンを配置した。

 だが、オランダ出身の策士ペーター・ボスに目先の結果に焦る付け焼き刃の戦術変更は通用しない。50分にレバークーゼンが奪った勝ち抜けを決定づける2点目は、前がかりになるポルトの希望を打ち砕くのに十分な力を持っていた。

 センターサークル付近でボールを受けたデミルバイが一気にスピードを上げると、その時点でポルトのゴールを守るのはGKと3バックのみに。中央のぺぺをアラリオが引きつけながら囮になり、突破を仕掛けるデミルバイには左からイバン・マルカノが寄せにいった。

3バックは機能せず蹂躙されるのみ

 もうこの時点で勝負あり、だ。後退しながら対応するポルトのディフェンスラインには大きなギャップが生まれ、チャンセル・ムベンバの背中をとって抜け出したムサ・ディアビがデミルバイからのスルーパスを受けてGKアグスティン・マルチェシンと1対1になる。

 ここで一度フィニッシュは阻まれたが、こぼれ球を拾ったカイ・ハフェルツがぺぺの寄せをかわしながらペナルティエリア内でフリーになったデミルバイにパスを通し、先制点をアシストしていた背番号10はやすやすとゴールを陥れた。

 2戦合計で4失点目を喫したポルトは、残り40分とアディショナルタイムで最低でも3点を奪わなければラウンド16への望みが絶たれてしまうしまう状況に追い込まれた。気持ちだけは前に行くが、そうなるとレバークーゼンは甘くなった背中を突いてくる。

 57分、ポルトのかすかな希望を打ち砕く3点目は自陣からわずかパス4本で生み出された。ハフェルツのスルーパスに対し、ポルトの3バックは全員が1人の受け手を追いかける始末。受け手となったムサ・ディアビのシュートは飛び出したGKマルチェシンが弾いたが、こぼれ球をそのまま拾ってのラストパスが「4本目」になった。慌てふためく3人のセンターバックの忘却の彼方に置かれていたハフェルツは、シュートを流し込むだけでよかった。

 試合展開を考えれば、まさに“It’s over”だった。スタンドのサポーターにも反撃を後押しし、逆転の雰囲気を生み出すだけのエネルギーは残されていなかった。66分にムサ・マレガが1点を返すも焼け石に水で、85分には途中出場のチキーニョ・ソアレスが競り合いで相手DFの顔面に肘打ちを食らわせて一発退場を食らう始末。最初から最後まで散々な出来で、ポルトはELから姿を消すことになった。

 中島は61分にペナルティエリア内左でフリーになり、自らシュートも打てそうな局面で隣のゼ・ルイスにパスを選択したがフィニッシュは決まらず。76分には自分のパスミスをカバーしようとしてファウルを犯し、イエローカードをもらうなど満足のいくパフォーマンスを発揮することはできなかった。チーム全体でシュート5本という体たらくでは、1人で何かを大きく変えることは難しい。

残されたタイトルは2つ

 試合後、コンセイソン監督は「我々は誇りを持ち続け、腕を下げることはなかったが、相手はより強かった」と素直に敗退の責を認めた。3バックというぶっつけ本番の「リスクを冒した」が、「残念ながら相手は、(後半に)我々のゴールに初めて近づいた時に2点目を決めた。それで全てが非常に難しくなった」と自らの采配によって期待したことがことごとく裏目に出たことを悔やむ。

「間違いなく失望している。タイトルを獲得してシーズンを終えたいと思っているし、まだ2つのタイトル(リーグ戦とポルトガルカップ)を獲得できる可能性が残っている。まずは月曜日のリーグ戦について考えていこうと思う。あと13試合、これからも頑張っていく」

 ELグループリーグの際に「我々はチャンピオンズリーグにいるべきクラブ」などと強気の言葉を発し、リーグ戦でも「我々が最後に頂点に立っていることだけが重要」という発言を繰り返してきた姿からは想像できない謙虚さだ。ビッグクラブとしてのプライドや自信は打ち砕かれた。

 ポルトガル勢はベンフィカ、スポルティングCP、ブラガがELラウンド32で敗退となり、グループリーグで敗退していたヴィトーリア・ギマランイスも含め、全てのクラブが今季の欧州の舞台から降りることとなった。もちろんポルトも同じだ。欧州カップ戦出場による放映権料や賞金に収入の大きな割合を頼っているポルトガルのクラブにとって、大きな打撃に違いない。欧州内での地位も含め、来季以降にも多大な影響が出るだろう。

 だが、もう切り替えるしかない。コンセイソン監督にとっても2年連続の無冠は避けたいところだろう。ポルトは首位ベンフィカに勝ち点1差で迫るリーグ戦での優勝と、同じくベンフィカとの対戦が決まっているポルトガルカップ決勝に向けて気持ちを切り替え、再び団結してしっかりと舵を切っていかなければならない。

(文:舩木渉)

【了】

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