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コロナ禍でも存続できるサッカークラブがイギリスにある。試合ができなくても価値を生み出せる理由とは?【英国人の視点】

新型コロナウイルスの影響により、世界中のほとんどの国でサッカーを含めたスポーツの試合は依然として中断されている。試合はおろか、練習も満足にできない状況で多くのサッカークラブは金銭的な問題に直面している。一方で、イングランドのルイスFCは、地域社会において存在感を放ち続ける一つの例となっている。(取材・文:ショーン・キャロル)

text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

コロナ禍で存在価値を高めるクラブ

ルイスFC
【写真:ショーン・キャロル】

 新型コロナウイルスが依然として世界中で猛威を振るい続ける中、この現状に対応するため助けを必要とする人々も増える一方となっている。

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 生活必需品が入手できず苦しむ社会的弱者であれ、子どもたちの自宅学習の世話をしながらリモートワークを強いられる親たちであれ、週末のスタジアムで友人たちと交流する楽しみを奪われてしまった人々であれ、2020年は新たな日常への適応を強いられる例が増え続けている。

 その中で各サッカークラブも積極的にそれぞれの役割を果たしている。だが、イングランド南東部に位置するルイスFCは特に注目すべき例のひとつかもしれない。

 ルイスFCについては、2017年にもこのコラムで読者の皆さんに紹介したことがあった。(イングランドに残るフットボールの原風景。利益求めず…8部クラブが目指す真の地域密着)コミュニティーが保有してコミュニティーが運営するクラブであり、男子チームと女子チームに同じ給与を支払い始めた世界初のクラブでもあった。そしてこのクラブはこの3年間で大きく飛躍している。

 男子チームは2017/18シーズンを終えた時点でイスミアンリーグ・プレミアディビジョン(7部)への再昇格を果たし、女子チームはFAウィメンズ・チャンピオンシップ(2部)に定着。またクラブはピッチ外でも大きな社会貢献を続けてきた。現在のパンデミックの中でその存在はさらに強まっている。

「ある意味で我々は、共同体内での自分たちの位置を再確認し、それに従って動いています」とディレクターのチャーリー・ドブレス氏は5月初頭に語ってくれた。「我々の立場、我々の価値、我々の基本戦略に沿った行動を取り続けています。つまりサッカークラブとして模範的であり続けることです」

2つに分けられるサッカークラブの問題

 男子チームの2019/20シーズンは打ち切りとなり、女子チームは再開の可能性が保留されている状況だが、クラブはファンとの関係維持に注力し続けている。例えば、自分自身や他の誰かへのサポートを要請できる「オンライン・コミュニティー・ヘルプ」。あるいは自宅で良い子にしている子どもたちに感謝の手紙とペンが送られる「ホーム・ヒーローズ」活動。またZoomを用いた指導者向けのQ&Aセッションも開催している。

「ルイス・フットボールクラブの活動を目にした人々に、『サッカークラブはまさにこういうものであってほしかった』と思ってもらいたいと考えています。非常にポジティブな成果が出ており、もともと強固だった繋がりがさらに強くなっています」とドブレス氏は語る。

 人々の生活の不安だけでなく、クラブはサッカーそのものがいつどのような形で再開できるのかという問題にも対応しなければならない。ドブレス氏はこの問題を大まかに健康面と経済面の2つに分けて考えている。

「トレーニングから試合日までの環境を、参加者たちにとって全面的に安全とするためにはどうすればいいか。健康面の問題を解決する手段も定かではないですが、それが解決できたとしても金銭面の現実に直面せざるを得ません」

 金銭面の問題の大部分は、試合をおそらく無観客で開催せざるを得ないという見通しに起因している。プレミアリーグは莫大なテレビ放映権収入により比較的容易に荒波を乗り越えていけるとしても、下部リーグの多くのクラブは生き残るために財政補助を必要とすることになるだろう。そういったクラブの職員給与は現在、政府の「一時解雇」措置によって賄われている。

「プレミアリーグ以外のどのクラブも、サッカーが再開される際には、現在一時解雇としている選手たちやコーチたちをもちろん再雇用することになります。ベースコストが再びかかってくることになりますが、試合日の収益がなければそのコストをカバーすることはできません」

コロナ禍でもクラブを維持できる理由

 ルイスFCも当然ながら、チケット販売による収益を失う影響を受けることは他の全てのクラブと変わらない。だがファンが経営を行っているという事実はこのクラブの助けとなる。

「コストの大部分はサッカーをプレーするという活動に関わるものです。サッカー関連以外のスタッフや備品、レンタル料など固定費用もありますがそこまで高いものではありません。他のクラブにはない我々だけの追加収入として、オーナーシップ収入もあります」とドブレス氏は説明してくれた。

 このクラブのシステムでは、年額最低40ポンドを支払うことでクラブのシェアを購入することができる。そしていかなる個人も、いくら支払っても一口までしかシェアを買うことはできない。この結果として、新型コロナウイルスの引き起こした苦難の時期においても確かな基礎を維持し続けることが可能となっている。

「1500人から1600人ものオーナーがいるおかげで、一人のオーナーがやって来て『もうたくさんだ、自分のオモチャを家に持って帰る』と言われることはありません」とドブレス氏は語る。

「コミュニティーやファンによるオーナーシップの重要な点は、それにより安定感が生まれること、そして地域に密着した感覚がはるかに強く感じられることです。地理的な意味でも、自分たちにとっての関心分野という点でも、コミュニティーのために尽くすことこそが目的です。我々の場合はキャンペーン活動や、男女平等への取り組み、ギャンブル関連の広告をサッカーからなくす取り組みなどがそれにあたります」

「3月以来、サッカーがプレーできなくなっているのはルイスでも他のクラブでも変わりはありません。それでも我々の存在感やコミュニティー内での存在価値はほとんど変化していません。あらゆるものを内包できるのがサッカーの力だからです。サッカーがそのパワーを良い方向へ使えるということです。サッカーは社会変革への推進力になり得ると我々は信じています」

ボールを蹴ること以上に意味がある

 そういった意味において、これまで以上にホームタウンに根ざした不可欠な存在となることを目指しているJリーグクラブは、ルイスFCから何かを学べる部分もあるのかもしれない。

「私たちに寄せられているフィードバックや前向きなコメントの多くは、(ホームスタジアムの)ドリッピング・パンに一度も来たことのない人々からのものです。普段からですが、今の時期は特にそうです」とドブレス氏は語る。

「そういった方々は、コミュニティー内での活動から我々のことを知ったのではないかと思います。サッカーの試合に来たことはなくとも、我々のやっていることを気に入ってもらえています。それこそがまさにサッカーの本来の目的に適うものであり、素晴らしいことだと思います。サッカーには単にピッチ上でボールを蹴ること以上のパワーや意味があるという証です」

 ルイスFCのオーナーになりたい方がいれば、こちらからわずか年間40ポンド(約5300円)で実現可能だ。

 さらに、オーナーになった上で日本オーナー支部(追加費用は不要)を開設したいと思う方がいれば、こちら(charlie@lewesfc.com)からチャーリー・ドブレス氏に連絡を取ってみてほしい。

(取材・文:ショーン・キャロル)

【了】

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