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香川真司 4年前

香川真司の真骨頂。9ヶ月ぶりゴールは「らしさ」全開…暫定首位のサラゴサを昇格に導けるか

スペイン2部のレアル・サラゴサに所属する日本代表MF香川真司が、約9ヶ月ぶりとなる今季3得点目を挙げた。チームも勝利して今季初の暫定首位に浮上。リーグ再開から2試合連続で先発起用された日本代表MFは、昇格を目指すサラゴサにとってより一層重要な存在となりつつある。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Mutsu Kawamori

ここぞで発揮された香川の真骨頂

香川真司
【写真:ムツ・カワモリ】

 レアル・サラゴサが、暫定ながら今季初めてスペイン2部の首位に躍り出た。

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 現地16日にラ・リーガ2部第33節が行われ、サラゴサはルーゴに3-1で勝利を収めた。前節アルコルコンに敗れていたため、リーグ戦再開後初勝利となった。

 序盤から苦しい戦いを強いられた。サラゴサの攻撃は大味で、中途半端な縦パスを簡単にカットされて度々反撃を食らった。ペナルティエリアに侵入されて、ルーゴに多くのチャンスを作られた。そんな展開の中で、突破口を開いたのは香川真司だった。

 2試合連続で先発起用された背番号23は、自らの「らしさ」があふれたゴールでサラゴサに先制点をもたらした。昨年9月中旬の第5節エストレマドゥーラ戦以来、約9ヶ月ぶりのシーズン3得点目だ。

 19分の左コーナーキックの場面。アルベルト・ソロが蹴ったキックは一度相手にクリアされたが、後ろに残っていたイニゴ・エグアラスがこぼれ球を拾い、胸でコントロールしてシュートを試みる。だが、ここでキャプテンマークを巻いたMFは豪快に空振りしてしまった。

 これに安心したか、ルーゴはディフェンスラインを上げ始める。空振りしてしまったエグアラスはボールに食らいつき、スルーパスにつなげた。

 香川の真骨頂が発揮されたのは、一瞬だった。エグアラスからパスが出ると、とっさに反応して右足でボールを引き込みながら素早くターンして前を向き、そのままコンパクトに右足を振り抜いた。

 この回転軸が小さく瞬時に前を向くターンこそ、ヨーロッパで生き残るうえで磨かれてきた香川の最大の武器ともいえるプレーだ。これまでも高い技術と瞬発力で多くのDFたちを置き去りにしてきたが、31歳になっても武器は錆びついていない。

ボールに触る機会が少なくとも

 香川がボールを受けた時、ルーゴのディフェンスラインは横並びに揃っておらず、右サイド(サラゴサから見て左サイド)の選手の押し上げが遅れていた。そのためオフサイドにはならず、フリーになって右足を振ることができた。

 しっかりとコントロールされたシュートは、GKの手をかすめてゴールの左隅に突き刺さった。ペナルティエリア外から爽快な一発を叩き込み、香川も雄叫びをあげる。守勢に回っている時間は長かったものの、サラゴサにはこの先制点で精神的な余裕が生まれただろう。

 後半に入ると64分にラウル・グティが追加点を挙げ、86分には香川との交代で投入されたミゲル・リナレスが3点目を奪う。すでに退場者を出していたルーゴにとっては、痛すぎる失点だ。後半アディショナルタイムに1点を失ったものの、サラゴサは数少ないチャンスを生かして勝ちきった。

 スペインメディアでは先制点を挙げた香川に対する絶賛が相次いでいるようだ。しかし、正直に言ってゴールの場面以外、試合全体を通して見た香川のパフォーマンスが傑出していたとは言い難い。というより、100%の力を発揮できる環境ではなかった。

 なぜなら、そもそもボールがあまり回ってこないからだ。序盤でも述べた通りサラゴサは押し込まれる時間帯も長く、攻撃は単調で簡単にロングボールを蹴り出してしまう場面も多くあった。そうなると4-4-2の2トップの一角、セカンドトップに近いポジションを取る香川の足もとにいい形でショートパスが入ることも少なくなる。

 もちろんボールを受ければ、ピッチ上に「違い」を生み出せる。抜群のキープ力を発揮し、味方の攻め上がりを促すクレバーさは健在で、パスが来ないならばフリーランで味方が動くためのスペースを作ることも厭わない。

 実際、2点目の場面では、左サイドからアーリークロスが入るタイミングで最も遠い右サイドに香川が立っていたことでルーゴのDFの反応が遅れ、結果的に中央へ走り込んできたラウル・グティがフリーでシュートを打つことができた。

次節は昇格争いの大一番

 ボールのないところでの献身性や賢さも持ち味だが、やはりピッチの中央でボールに触りながらリズムを作っていく方が香川「らしさ」が出てくる。1部よりもフィジカル重視で手堅い展開になりがちな2部では満足にパスが出てこない試合も多いが、クオリティの面で突出したものを見せているだけに、「香川の真の実力はこんなものではない」と感じてしまうのも事実だ。

 サラゴサのビクトル・フェルナンデス監督は試合後、「我々は今夜、順位表のリーダーとして寝床につく。他のクラブが次にどうなるか見ていくつもりだ」と述べつつ、これからも困難な戦いになることを覚悟するコメントを残している。

「シーズンの終わりまで、非常に拮抗した競争が続く。誰もがどの相手も倒すことができる。我々は未知のシナリオに直面しており、誰にとっても勝ち点を獲得するのは非常に難しいんだ」

 新型コロナウイルスの感染拡大にともなう長期間のリーグ中断があったため、ただでさえ年間42試合をこなす(昇格プレーオフが追加される可能性もある)スペイン2部は、例年以上に過酷な終盤戦を迎えようとしている。

 サラゴサもアウェイでのルーゴ戦を終えてから中3日で次のホームゲームに挑まなければならない。しかも、相手は昇格争いの直接のライバルであるアルメリアだ。もし勝てば、3位の強敵を蹴落とすことができるかもしれない超重要な一戦になる。

 2試合連続で先発起用された香川は、2試合とも後半途中でベンチに下がっている。アルメリア戦でもスタメンに名を連ねて重要な役割を任される可能性は十分にあるだろう。拮抗した難しい試合であればあるこそ、クオリティの高さが際立つ背番号23が「違い」になればサラゴサは勝利に近づける。

 中盤戦には負傷離脱やレギュラー落ちの悔しさも味わい、2部リーグの厳しさを痛いほど突きつけられたはず。その苦しみを乗り越えて復調傾向にある今こそ、香川が持てる力の全てを発揮してチームを1部への自動昇格に導くキーマンになる時だ。

(文:舩木渉)

【了】

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