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Jリーグ 4年前

名古屋グランパスで暴れるウルトラマン。浦和レッズ戦で4得点、チームが掲げる「縦のビジョン」とは?【週刊J批評】

明治安田生命J1リーグ第9節、名古屋グランパス対浦和レッズが8日に行われ、6-2で名古屋が勝利した。この試合に先発した前田直輝は4得点の大暴れ。大勝の裏には、マッシモ・フィッカデンティ監督が標榜するスタイルが反映されていた。(取材・文:河治良幸)

シリーズ:週刊J批評 text by 河治良幸 photo by Getty Images

「ウルトラマン」と呼ばれた男

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名古屋グランパスの先発フォーメーション

 新型コロナウイルスの影響下で観客の人数を制限しての開催が続いているJリーグだが、週末には多くのゴールが生まれた。その中でもインパクトを放ったのは名古屋グランパスの前田直輝だ。浦和レッズを相手に6-2と大勝した試合で、4得点を叩き出した。

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 名古屋グランパスに所属する前、東京ヴェルディから松本山雅に期限付き移籍していた時に、試合中の活躍時間が短いことから当時の反町康治監督(現・JFA技術委員長)に「ウルトラマン」と言われていた。その前田はこの日、ウルトラマンの大ファンであるという息子にウルトラマンのゴールパフォーマンスを送った。

 1試合4得点はJ1で通算19人目、昨年3月に北海道コンサドーレ札幌のアンデルソン・ロペスが達成して以来の記録だった。組織的にボールを奪ったら素早く縦に仕掛け、多くの選手が連動するというマッシモ・フィッカデンティ監督が今シーズン掲げる名古屋のスタイルが、前田のゴールには集約されている。

 前田は4-2-3-1の右サイドハーフで起用されている。1トップの金崎、負傷中の阿部浩之に代わりトップ下に入っているガブリエル・シャビエル、左サイドのマテウスと攻撃のイメージを共有し、ボランチや両サイドバックからの的確なサポートも受ける形でフィニッシュにつなげていた。4ゴールの内訳は下記の通りだ。

1点目:GKのロングキックから
2点目:自陣からのビルドアップ
3点目:自陣からのカウンター
4点目:自陣からのカウンター

GKを起点にゴールに迫る

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浦和レッズの先発フォーメーション

 前半9分、10分とたて続けに奪った最初の2ゴールから振り返ると、1点目はGKランゲラックのロングキックを金崎と浦和センターバックのトーマス・デンが手前に引きながら競り合い、前方にこぼれたボールをマテウスが拾ったところで名古屋の選手たちに縦のスイッチが入った。浦和のディフェンスがマテウスを潰そうとするが、マテウスはいなしながらキープして左に流れたガブリエル・シャビエルに展開。前田は金崎に代わりトップ中央で、浦和バックラインの間にポジションを取った。

 浦和のディフェンスはガブリエル・シャビエルに複数でチェックに行くが、名古屋は左サイドバックの吉田豊が大外を追い越してパスを受ける。吉田はクロスを放つと見せかけて、インサイドにグラウンダーのパス。これをマテウスが浦和ディフェンスを引きつけながらスルーし、ポジションを前に取り直していた金崎がペナルティエリアの左隅で受けた。

 吉田豊とマテウスが金崎の左外側からゴール方向に走る。浦和ディフェンスの意識がボールサイドに集まったタイミングで金崎が中央にグラウンダーの速いボールを送り込むと、前田が浦和左サイドバックの山中亮輔とセンターバックの鈴木大輔の間から飛び出してワンタッチシュート。これはGK西川周作に弾かれるが、こぼれたボールを拾い直した前田は鈴木のスライディングを鮮やかにかわして左足でボールを流し込んだ。

鮮やかなカウンターでハットトリック

前田直輝
【写真:Getty Images】

 その先制ゴールから束の間、浦和の守備が前がかりになったところを逆手に取る形で2得点目が生まれた。名古屋は自陣のビルドアップで浦和のプレスを誘って全体を間延びさせる。マテウスのバックパスから左センターバックの丸山祐市、ボランチのジョアン・シミッチ、左サイドバックの吉田豊とボールをつないで、左前方のマテウスに素早くボールを付ける。

 東京五輪代表候補でもある右サイドバックの橋岡大樹がマテウスを厳しくチェック、さらに左に流れた金崎をデンがタイトにマークするが、狭いところでマテウスと金崎が入れ替わり、裏に出たボールにマテウスが走り込んで橋岡を突き放す。中央を走る前田は、マテウスがGKとディフェンスの間に出したボールに右足で合わせた。

 前半18分に得意のセットプレーからジョアン・シミッチが3点目を奪うと、浦和の反撃をしのいだ名古屋は自陣の守備から鮮やかなカウンターで、前田はハットトリックとなるチーム4点目を決めた。ボランチの稲垣祥、吉田、丸山が連動してディフェンスラインの前でボールを奪うと、稲垣からショートパスを受けた丸山が左足で速いパスを前線のガブリエル・シャビエルに送る。

 ここで浦和センターバックの鈴木が厳しくガブリエル・シャビエルをチェックするが、テクニシャンのブラジル人MFは体を反転させながら鈴木と入れ替わりフリーに。浦和の山中がカバーに行ったことで、右外の前田がフリーになった。ガブリエル・シャビエルは山中が寄せ切る前にボールを裏に出す。前田はファーストタッチでボールを縦に運ぶと、GK西川の脇を通る左足のキックでゴールに流し込んだ。

対面するDFとの駆け引き

 名古屋の5点目となるガブリエル・シャビエルのゴールは、浦和の決定的なチャンスがポストに弾かれた直後のカウンターからもたらされた。前半だけで5-0の大量リードを奪った名古屋に対して、浦和は”三枚替え”で後半3分のFWレオナルドのゴールに結び付けるが、わずか2分後に前田が再びカウンターから自身の4点目となるゴールを記録した。

 武藤雄樹からFW杉本健勇へのパスを吉田が奪い、粘り強く左前方に運ぶと、インサイドから連動したガブリエル・シャビエルがボールを預かり、アタッキングサードの手前まで運ぶ。浦和も必死に戻りながら守備陣形を整えようとするが、ボールはタイミングよく中央を走る金崎にボールが渡り、3人のディフェンスが引き付けられたところで、金崎は右足でディフェンスの足下を抜くパスを前田に合わせた。前田の力強い左足のダイレクトシュートがGK西川の反応を破った。

 このシーンで興味深かったのが前田のゴール前への入り方だ。自陣の右側で守備に参加していた前田は名古屋の攻撃に切り替わったところでボールと反対サイドから浦和陣内に攻め上がる訳だが、対面する左サイドバックの山中を先に戻らせておいて、少し遅れ気味に移動したところから、山中がボール方向を気にするタイミングでギアを入れてインサイドに走り込み、最後はフリー同然の体勢で左足シュートを放っている。

 GKのロングキックから金崎のポストを起点にした1点目、相手のプレスを逆手に取るビルドアップからの2点目、連動したボール奪取からのカウンターによる3点目、さらにロングカウンターからタイミングよくゴール前に走り込んでの4点目。最終的には前田のセンスが発揮されているが、やはり名古屋グランパスの縦に矢印を向けた攻撃ビジョンが凝縮されている。

 終盤にレオナルドの2点目で浦和に1点返されたものの、6-2と大勝した名古屋グランパス。チームに新型コロナウイルスの陽性が相次ぎ、トレーニング時間も制限されるなど難しい状況に置かれながら、フィッカデンティ監督のもと積極的なサッカーで勝ち点を積み重ねている。ここに来て米本拓司や阿部浩之といった主力の負傷が相次ぐなど、過密日程の中で厳しい戦いが続くが、今シーズン注目したいサッカーがここにあることは間違いない。

(取材・文:河治良幸)

【了】

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