アビスパ福岡はなぜ勝ち続けるのか? 今季も“魔境”のJ2、9連勝で17位から2位へ急浮上の理由【週刊J批評】

明治安田生命J2リーグは例年と同様、激しい昇格争いが繰り広げられている。アビスパ福岡は3連敗を喫するなど、苦しい序盤戦を過ごしたが、クラブ史上初の9連勝で昇格圏の2位に浮上した。快進撃の理由はどこにあるのだろうか。(文:河治良幸)

2020年10月06日(Tue)11時33分配信

シリーズ:週刊J批評
text by 河治良幸 photo Getty Images
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“魔境”のJ2にダークホース登場

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【写真:Getty Images】

 明治安田生命J1リーグは川崎フロンターレが2位のセレッソ大阪にアウェーで3-1と勝利し、勝ち点差を14に広げた。まだ優勝確定とは言えないが、大きく前進したことは確かだろう。

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 そうした中で優勝・昇格争いが激しくなってきているのがJ2だ。しばしば“魔境”とも呼ばれるJ2は今シーズン、新型コロナウイルスの影響で3位から6位までが出場するプレーオフが無くなり、上位2クラブがJ1に自動昇格という厳しいレギュレーションになっている。

 前半戦でV・ファーレン長崎が飛び出し、J3から昇格してきたギラヴァンツ北九州が攻撃的なサッカーを武器に、大方の予想を覆す大躍進で一時は首位に躍り出た。その北九州との“福岡ダービー”に勝利し、首位・徳島ヴォルティスに勝ち点2差の2位に急浮上してきたのがアビスパ福岡だ。

 15試合を終えて、勝ち点19で17位というのがアビスパ福岡の成績だった。そこから9月5日の試合でレノファ山口に2-0で勝利すると、破竹の9連勝を果たし、わずか1ヶ月で昇格圏内の2位に躍り出た。

 開幕時から劇的に戦い方が変わったわけではない。昨シーズンまで水戸ホーリーホックを率いた長谷部茂利監督が就任して、組織的なハードワークをベースにソリッドな守備とダイナミックな攻撃をベースとしたスタイルは徐々に形ができているように見えた。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で8月2日に予定されていたアウェーの大宮戦が当日になって延期が決まり、キャプテン前寛之に陽性反応が出たことが発表された。さらに夏場の疲労や主力のアクシデントも重なり、満足な編成を組めない状況が続いた。

中盤の充実と前線の軸

 ちょうど連勝街道に入る直前のジェフ千葉戦を取材したが、後半アディショナルタイム6分、最後の最後にFWフアンマ・デルガドがスローインの流れからゴールを決めた。その試合を観る限り、とても直後に9連勝するチームには見えなかったが、この同点劇が1つ転機になったことは確かだろう。

 長谷部監督は「得点は生まれましたが、シュートの数も相手を上回れていない意味では改善の余地があるし、次の試合に向けて変えられる。まだまだ物足りない」と語っていた。良くなる兆しはあった。サンフレッチェ広島から東京五輪候補のMF松本泰志が期限付き移籍で加入し、前寛之キャプテンの復帰、そしてフアンマに得点が生まれ出した。

「フアンマはしばらく得点から遠ざかったが、彼の持ってる力を最大限出せるように、選手たちも関わっていくことが攻撃の軸だと思っています」と長谷部監督。縦に速い攻撃がアビスパの武器だが、フアンマが前線で相手に脅威を与えれば、周囲の選手に相手のマークが行きにくくなる。

 9連勝のスタートとなった山口との試合は川崎Fから期限付き移籍中の遠野大弥と木戸皓貴がゴールを決めたが、完全にフアンマがターゲットになることで前線に明確な起点ができ、鋭いフィニッシュにつながったことで2-0の勝利を手にした。この試合では前寛之が8試合ぶりの復帰、フアンマが出場停止となったモンテディオ山形戦で前寛之と松本泰志がボランチのコンビを組むと、中盤のボール奪取とカウンターの機能性が増した。

強さを支える強固なセンターライン

 山形戦で唯一の得点となった遠野のゴールは前寛之を起点に、右サイドバックのエミル・サロモンソンが送ったクロスに鮮やかに合わせる形だった。続くFC町田ゼルビア戦にはフアンマが復帰し、前半は松本と経験豊富な鈴木淳がボランチのコンビを組み、後半に鈴木に代わって前寛之が出るという効果的な選手交代で躍動的な町田のサッカーを封じ込めた。

 そこから延期になっていた大宮とのアウェー戦に勝利し、さらにツエーゲン金沢、ザスパクサツ群馬、長崎、栃木SCを叩いて、北九州との”福岡ダービー”も制して連勝は9連勝まで伸びた。

 ボランチの強度が上がり、FWフアンマの存在感が増したことで、周囲の選手もやるべきことがシンプルに整理されたことは間違いない。それに加えて、柏レイソルからの期限付き移籍ながら副キャプテンを担う上島拓巳とドウグラス・グローリのセンターバックがそれぞれの対人戦の強さに加えて連携を高めている。GKは守護神セランテスがここ4試合は欠場しているが、村上昌謙がそれを感じさせないパフォーマンスで埋めているのも大きい。

 そうしたセンターラインの充実が強さのベースにあるが、左右のサイドバック、サイドハーフ、フアンマの相棒である遠野を含めて、攻撃と守備の両面に渡って全員が関わり、タイトな守備とダイナミックな攻撃を作り出す意識が揃っている。

昇格のチャンスがあるクラブは…

 北九州戦はボール保持率33%、チャンスの数も変わらなかったが、ボールを奪った瞬間にゴール方向のスイッチが入り、2人、3人と飛び出す攻撃は相手ディフェンスが非常に捕まえにくそうにしていた。さらに栃木戦で途中出場から決勝点をあげた福満隆貴のような“ラッキーボーイ”が出てくるのも記録的な連勝を続けるチームの特色だ。

 ただ、1年目の長谷部監督が掲げるスタイルの理想から言えば、もっと高い位置に相手を追い込んでボールを奪い、ショートカウンターで攻め切る、さらに落ち着くべき時間帯はボールを保持しながら相手のディフェンスを疲れさせると言った、もっとゲームを支配する時間を増やしたいはずだ。

 現在は要所で1つ流れが変われば結果が変わりうる中で、要所をモノにして勝利につなげていることが見て取れる。上位を戦うにふさわしいチームになってきているが、連勝がどこかで終わった後の試合は難しくなるだろう。

 首位の徳島は第2節の愛媛戦で3-0からセットプレーで4失点する最悪のリスタートとなったが、そこから着実にチームの状態を上げて長崎、北九州を追い抜いてきた。さらに京都サンガは横浜F・マリノスから仙頭啓矢が期限付き移籍で復帰し、アルビレックス新潟は途中加入の鄭大世(チョン・テセ)が前節の町田戦でハットトリックを決めるなど、後半戦に向けて勢いに乗りつつある。攻撃力と守備力を兼ね備えるヴァンフォーレ甲府など、まだまだ多くのクラブにJ2優勝・J1昇格の可能性は十分に残されている。

 そこに2位の福岡から勝ち点16差と引き離され、崖っぷちの状態にあるジュビロ磐田が監督交代、さらにガンバ大阪から期限付きで遠藤保仁を引き入れた効果を発揮して追い込みをかけられるか。ここから“魔境”の秤量が発揮されていきそうだ。

(文:河治良幸)

【了】

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