「やっぱりメッシ」が証明されたバルセロナ。14ヶ月ぶりベンチも一変した投入策、グリーズマンは主役になり損ね…

ラ・リーガ1部第9節が現地7日に行われ、バルセロナはベティスに5-2で勝利を収めた。この試合では常に先発フル出場が当たり前だったリオネル・メッシが、約14ヶ月ぶりにベンチで試合開始の笛を聞いた。一方でアントワーヌ・グリーズマンは主役になるはずだったが……。(文:舩木渉)

2020年11月08日(Sun)13時03分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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メッシが14ヶ月ぶりのベンチスタート

リオネル・メッシ
【写真:Getty Images】

 ラ・リーガでは試合前に第2監督がテレビカメラの前でインタビューに応じるのが慣例になっていて、リーグ公式YouTubeチャンネルでもウォーミングアップの様子などとともに配信される。

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 現地7日に行われたラ・リーガ第9節のバルセロナ対ベティス戦の試合前インタビューで、リポーターが最も鋭く切り込んだのは「メッシはなぜベンチスタートなのか?」という話題だった。

 ピッチ内外で絶対的な地位を築くリオネル・メッシは近年、大きな負傷などがない限り、常に先発出場を続けてきた。今季はここまで公式戦全試合に先発、昨季も欠場したのは負傷を抱えていたリーグ序盤戦の5試合と、コパ・デル・レイとUEFAチャンピオンズリーグで1試合ずつしかない。

 新型コロナウイルスの感染拡大にともなう中断明けの過密日程も全てフル出場していたエースが、ベンチスタートになるのは昨年9月以来、実に約14ヶ月ぶりという“珍事”だった。

 ただ、最近のメッシが精彩を欠いていたのは事実で、例年のような圧倒的な存在感は鳴りを潜めていた。決めたゴールもPKのみというのも、不調という印象をさらに強くする。なので背番号10をベンチに座らせたロナルド・クーマン監督の決断も、「ついにその時が来たか…」と思わざるを得ない。

 ベティス戦前、バルセロナの第2監督を務めるアルフレッド・シュルーダーは、レポーターにメッシの起用法についてしつこく突っ込まれ「完璧にフレッシュな状態ではなかった。それだけだ」と繰り返した。

 一方、ベティスを率いるマヌエル・ペジェグリーニ監督はいつも試合前のインタビューに自ら答えている。「私は(メッシがベンチスタートなのを)予想していなかった」と語ったのは本心だろう。

 いくらメッシ依存から脱却しようと彼に頼らないチーム作りを目指しているとはいえ、ピッチに立っていればボールは集まる。「メッシなら何とかしてくれる」という信頼もあるだろうし、いい意味でも悪い意味でもチームの調子を左右するバロメーターになっていた。

仏頂面のメッシ、天を仰ぐグリーズマン

 だからこそ絶対的なエースがいない状況で他の選手たちがどんなパフォーマンスを見せるのか、勝利を手繰り寄せることができるのかに注目が集まった。いつも窮屈そうにプレーしていたアントワーヌ・グリーズマンが本来の輝きを放てるかもしれない、という期待もあっただろう。

 そして、確かにメッシのいない前半の主役はグリーズマンだった。

 だが、余計に試合を難しくしてしまったのもグリーズマンだった。

 22分にウスマン・デンベレのゴールをアシストしたものの、2トップの一角に入ったフランス代表FWは3本の決定的なシュートチャンスを外してしまった。さらにリードを広げる絶好機だったPKも相手GKクラウディオ・ブラーボに止められて失敗。

 何度も試合を終わらせるチャンスがありながら、ことごとくそれを逃していると、前半アディショナルタイムの47分に追いつかれてしまう。ベティスにあっさり崩され、かつてバルセロナのカンテラ(下部組織)に所属していたアントニオ・サナブリアに同点ゴールを許してしまった。

 嫌な流れが漂ったまま前半が終了。試合前からハーフタイムに突入するまで、ベンチに座って仏頂面のメッシはテレビカメラに何度抜かれたことだろうか。「やはりメッシが必要なんだろう?」と訴えかけるような、スペインの中継制作はいつもと変わらず意地悪で味のある映像を届けてくれる。

 クーマン監督は、前半にアンス・ファティが負傷していたこともあって、後半頭からメッシをピッチに送り出した。この決断が、試合の流れを大きく動かした。バルセロナは1人の力によって見違えるようなチームへと生まれ変わったのである。

 成果はいきなりゴールという形になって現れた。49分、左サイドを駆け上がったジョルディ・アルバがグラウンダーのクロスをゴール前に送ると、ニアサイドでメッシがスルー。ボールが通り抜けた先にはフリーのグリーズマンがおり、ただ触るだけでゴールという状況ができあがっていた。

試合の流れを完全に掌握した10番

リオネル・メッシ
【写真:Getty Images】

 試合の主導権は完全にバルセロナのものになっていた。前半はボール支配率で47対53とベティスに上回られ、“らしさ”が消えかかっていたが、メッシが入った後半は驚くほどスムーズにパスが回るようになった。終わってみれば90分間のボール支配率は59対41、後半だけだと71対29でバルセロナがベティスを凌駕していた。

 60分にはベティスのDFアイッサ・マンディがウスマン・デンベレのシュートをゴールライン上でブロックした際にハンドを犯し、一発退場に。メッシはGKブラーボの手が絶対に届かない厳しいコースに堂々とPKを蹴り込んだ。

 その後、緩慢な守備の隙を突かれて10人のベティスに追いすがられたものの、反撃はここまで。82分、セアド・ロベルトの絶妙なバックヒールパスに抜け出してディフェンスラインを破ったメッシが、豪快な一撃を見舞って2点目。90分にも躍動感あふれるプレーで好印象を残していたペドリが加点し、バルサが5-2でリーグ戦5試合ぶりの勝利を収めた。

 エースの呪縛から解き放たれたグリーズマンが輝くかと思いきや、苦しむ仲間を助け、さらにチームに流れを引き寄せて、自ら勝利に導いてしまう。「やっぱりメッシなのか…」という異次元の影響力がピッチを覆っていた。彼自らクーマン監督やパフォーマンスに懐疑的なテレビの前のファンに対して実力を見せつけるような覇気がプレーの端々から感じられた。

メッシへの信頼は揺るがないが…

アントワーヌ・グリーズマン
【写真:Getty Images】

 試合後、ジョルディ・アルバはメッシについて言及し「僕たちは彼が常に現場にいることを望んでいる」と強調した。

「今日、彼が出てきたことで試合が一変した。彼は群を抜いて世界一のプレーヤーだ。僕たちは彼と共にプレーしたいし、彼には常にピッチでプレーしていてほしい」

 解釈によっては監督批判のようにも聞こえるが、クーマン監督自身、メッシが今でも抜きん出た存在であることを十分に理解しているようだ。約14ヶ月ぶりのベンチスタートは、あくまでコンディションの問題だと試合後のテレビインタビューで語っている。

「彼は昨日から、(CLの)ディナモ・キエフ戦で多少の違和感を抱いたと話していた。なので、必要になった場合に備えてベンチに置いておくことが最善だと判断した。不快感がなければ彼は(先発で)プレーしただろう。彼が誰であるかはわかっている。間違いのない存在だ。先発でなくとも、後半の彼は非常に重要だった」

 主役になり損ねたグリーズマンに、指揮官は何を思うのか。メッシの確信に満ちたお膳立てによって決めたゴールはほとんど“触るだけ”で問題なく、「絶対的エースとそれ以外」を強烈に印象づけるようなインパクトがあった。

「私はグリーズマンの仕事に満足している。彼はPKを失敗し、チャンスも逃している。不運だったが、それでも常に得点するための場所にいるということだ。精神的な影響はあるだろう。しかし、彼が自信を持って得点するチャンスをレオ(メッシ)が与えた。ボールに触らない、素晴らしいアシストだった」

 クーマン監督はグリーズマンの貢献を称賛しつつも、「精神的な影響」を認め、やはりゴールはメッシによって与えられたものだという認識でいる。

 前節アラベス戦で今季初得点を決めながらも「チームが僕のゴールを必要としているのに、僕はチャンスをいくつも外してしまっている。今までも最近も、自分がこんなにチャンスを外すことはなかったので、改善していこうと思っている」とグリーズマンは語っていた。

 以前の自分ならこんなはずでは……という違和感を抱えながらのプレーでベティス戦もビッグチャンスをいくつも逃した。プッシュするだけのゴールを決めさせてもらったことで彼の気持ちが晴れ、自信を深められるとは到底思えない。

 ベティス戦は大勝で終えたものの、メッシという絶対的なエースへの依存から脱して新たな勝利の方程式を模索するチャンスのはずが、「やっぱりメッシ」が証明されてしまう皮肉な試合になってしまった。果たして、タイトル奪還を目指すバルセロナが抱える問題は、今のままで根っこから改善されるのだろうか……。

(文:舩木渉)

【了】

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