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グリーズマン、ついに復活の狼煙。きっかけは1本のインタビュー? 躍動感を取り戻した背景とは【分析コラム】

ラ・リーガ第11節が現地29日に行われ、バルセロナはオサスナに4-0で快勝を収めた。この試合でゴールを挙げたアントワーヌ・グリーズマンは、これまでと見違えるような躍動感あふれるパフォーマンスでチームを引っ張った。加入2年目の今、なぜ劇的に調子を上げているのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

インタビューで爆発「もう十分だ!」

アントワーヌ・グリーズマン
【写真:Getty Images】

 ストレスが溜まってどうにもならなくなった時、それを吐き出すことは非常に重要だ。

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 海に向かって叫ぶでもいいし、友だちに話すのでもいい。アントワーヌ・グリーズマンの場合、メディアに対して打ち明けることが、自らの胸につっかえたシコリを取り除くのにベストな方法だったのかもしれない。

 先日、スペイン『モビスタール・プルス』の番組「ウニベルソ・バルダーノ」に出演してインタビューに応じたグリーズマンは、「バルセロナの入団発表会見の場で、僕は『ピッチ外ではなく、ピッチの中で話をする』と言った。だが、もう物事を整理するときだ。ずっと我慢してきたし、もう十分なんだ」と、自身を取り巻く根拠のない憶測や厳しい批判に対して、思いの丈をぶちまけた。

「毎朝のように(自分に関する)悪いニュースの見出しを見るのに疲れた。それによってプレーを楽しめないでいるんだ。ニュースが何もないときはホッとするくらいだ」

 リオネル・メッシとの不仲説は「彼は僕の味方だと言ってくれたし、そのように日々感じている」と真っ向から否定。アトレティコ・マドリード時代のようなパフォーマンスを見せられていないことは「最高のグリーズマンを見せられていないのはわかっている」と認めつつも、「チームに何かあると、必ず最初に僕のことが槍玉に挙げられる」と不当な扱いを受けている現状に苦言を呈した。

 このインタビューが公開された直後、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のディナモ・キエフ戦でグリーズマンはゴールを奪っている。

 そして、現地29日に行われたラ・リーガ第11節のオサスナ戦でもチームの2点目となるゴールを記録した。それだけでなく試合を通して見ても、まるで憑き物が取れて翼が生えたように軽やかで、鮮烈な印象を残すパフォーマンスを披露した。

まだリーグ優勝を諦めない

 バルセロナの1点リードで迎えた42分、相手のクリアボールのこぼれ球にいち早く反応すると、ペナルティエリア外から強烈な左足ダイレクトボレーでゴールネットを揺らした。最高のタイミングで走りこんだグリーズマンの振り足はコンパクトで軽く、それでいてジャストミートしたシュートは相手GKを一歩も動けなくするほどのスピードだった。

 このゴールのみならず、トップ下に入った背番号7は前半だけで少なくとも3つ以上のチャンスを作り出した。後半にはフィリッペ・コウチーニョの追加点をアシスト。試合後のスタッツを見ても、グリーズマンは枠内シュート3本、ボールタッチ89回、パス成功率94%と凄まじい数字を残していた。

 おそらく加入後最高のパフォーマンスなのではないだろうか。

 ロナルド・クーマン監督も「今日の彼は、我々が望んでいるプレーヤーだった。懸命に戦い、ハードワークし、そして効果的だった」と絶賛する。そして「彼の動きのおかげで、より多くのスペースができたのかもしれない。ゴールは彼に自信を与えるだろう」とさらなる活躍への期待も語った。

 グリーズマン自身も「ああいうシュートはゴールの中に入るか、後ろのスタンドに飛んでいくかどちらかだね。幸いにも今日のは中に入った。これで(公式戦の)連勝を続けることができる」と、豪快なダイレクトボレーによる得点と4-0の大勝を喜んだ。

 朝食時に娘から頼まれたという、人気ビデオゲーム『フォートナイト』から着想を得たゴールパフォーマンスも披露。試合後のフラッシュインタビュー時には、コウチーニョが話す横で変顔をしておどける余裕すら見せた。精神的にも充実している証拠だろう。

「トップのチームが勝ち続けていて、その近くにいるためには重要な勝利だったと思う。シーズンはとても長いし、僕たちはそこで頂点に立ちたい。CLで僕たちがどんなプレーをし、そのうえで今日どんなパフォーマンスを見せたかを見れば、それこそが目標を達成できると僕たちが信じ続けられる理由だ」

 すでに首位レアル・ソシエダとの勝ち点差は10ポイントまで開いているが、バルセロナは消化が2試合少なく、まだ十分に逆転の可能性は残されている。シーズンは3分の1も終わっていない。

信頼を示し続けたクーマン監督

グリーズマン メッシ
【写真:Getty Images】

 率直な物言いで、記者会見の場を使って選手個々の課題を指摘することも少なくないクーマン監督は、ずっとグリーズマンのことを信じ続けてきた。ノーゴールが続いていた10月にも「彼の練習中の態度に不満はないし、彼自身も最善を尽くしたいと思っているだろう。落ち着くためにはゴールが必要だ」と擁護していた。

 グリーズマンと関係が切れている元代理人の発言によってメッシとの不仲説が再燃すると「メディアは論争を起こそうとしている。私はレオ(メッシの愛称)とアントワーヌに問題がある様子を見たことがない」と懸命に守った。

 バルセロナの監督就任当時から「ウィングで起用するつもりはない」と、あくまで中央でプレーさせる方向性を明らかにし、実際にそうしてきた。クーマン監督はオサスナ戦でグリーズマンをトップ下に据えたが、メッシやコウチーニョらと共存させるためには2列目の中央がベストポジションなのではないだろうか。

 個人の改善点やマイナス面も容赦なく指摘するオランダ人指揮官は、おそらく記者会見場だけでなくロッカールームでも同じことを選手たちに伝えているだろう。厳しく課題改善を求められてもいるはずだ。

 グリーズマンも例外ではなく、ゴールを決めるために必要なことや、成長のために一層の改善を要求されているに違いない。それと同時に、クーマン監督は厳しく突き放すのではなく、選手への信頼を示す。ことあるごとに「重要な選手だ」「日々頑張っている」「素晴らしいプレーだった」と、メディアに向けて積極的に発信もする。

 監督からのバックアップを受け、インタビューで悩みを打ち明け、心も体も軽くなったグリーズマンはようやく本来の姿を取り戻すきっかけをつかんでいそうだ。ディフェンスラインに負傷者が続出している危機的状況の今こそ、前線のアタッカーたちがチームを引っ張らなければチームの目標を達成することはできない。

 飛び跳ねるように軽やかな動きで相手のマークをすりぬけ、抜群の得点感覚でゴールネットを揺らし、カメラの前でダンスを踊るグリーズマンのハツラツとした姿をもっと見たい。

(文:舩木渉)

【了】

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