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鎌田大地、大活躍の背景は? バイエルンも撃破。フランクフルトで見えてきた理想の選手像【分析コラム】

現地20日にブンデスリーガ第22節が行われ、フランクフルトは王者バイエルン・ミュンヘンに2-1で勝利を収めた。この試合では日本代表MF鎌田大地が1得点1アシストと全得点に絡む活躍で、フランクフルトを勝利に導いた。チームの絶好調をけん引する24歳は、自らが理想とする選手像に限りなく近づいている。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

バイエルンから1得点1アシスト

鎌田大地
【写真:Getty Images】

 アイントラハト・フランクフルトの勢いが止まらない。

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 現地20日にブンデスリーガ第22節が行われ、フランクフルトは王者バイエルン・ミュンヘンに2-1で勝利を収めた。

 これでリーグ戦5連勝、第12節のボルシアMG戦以来11試合負けなしを継続している。第11節までで2勝7分2敗と勝ちきれない試合の多かったフランクフルトは、その後の11試合で9勝2分と見事に復調。順位も9位から4位まで上がった。

 3-4-2-1の2列目で併用されるようになり、絶好調の立役者となっている鎌田大地とアミン・ユネスがバイエルン戦でも輝いた。前者は1得点1アシスト、後者も1得点を挙げている。前半のうちに2点を先行したフランクフルトは、後半から守備重視にシフト。GKケビン・トラップの好守連発などにも助けられながら、相手の反撃を1点に抑えて絶対王者から勝ち点3をもぎ取った。

 フランクフルトの先制点は12分に生まれた。左サイドでフィリップ・コスティッチからのスローインを受けたユネスがボールキープしながら相手を引きつけ、レロイ・ザネの背後を取ってスペースへ抜け出したコスティッチにスルーパスを通す。

 こちらも絶好調の背番号10はペナルティエリア内まで侵入し、マイナス方向へ折り返すと、中央に詰めていた鎌田が滑り込みながら合わせてゴールネットを揺らした。名手マヌエル・ノイアーにも止める術のなかった先制点は、鎌田にとって今季3得点目となった。

 主導権を握って試合を進めるフランクフルトは31分に追加点奪う。自陣でコスティッチが相手からボールを奪うと、鎌田、ユネスと繋いで右サイドに大きく展開する。ペナルティエリア右手前でパスを受けたアルマニー・トゥーレは、浮き球でクロス性のボールを入れるが、これはミスになるかと思われた。

 すると鎌田が左サイドに飛び出してゴールラインぎりぎりでボールを収め、右斜め後ろへサポートに入ったユネスにパス。そして、背番号32のドイツ代表MFはペナルティエリア内に仕掛け、対峙したバイエルンのDFニクラス・ジューレを少しかわして右足を振り抜いた。こちらもノイアーが軌道を見送るスーパーショット。ユネスは今季3得点目、鎌田には11個目のアシストがついた。

鎌田とユネスが好調をけん引

 11戦負けなしの絶好調をけん引している2人が、バイエルンを打ち破った。今季新加入のユネスはブンデスリーガ第11節のヴォルフスブルク戦まで途中出場がほとんどだったが、第12節のボルシアMG戦からは先発起用が続いている。チームの調子が上向いたのと起用法が見事にリンクしているのである。

 一方の鎌田はシーズン序盤からアシストを連発していたが、なかなかチームの結果につながらず。第12節のボルシアMG戦でベンチスタートになり、第13節のアウクスブルク戦は今季初の出番なしに終わっていた。ところが第14節のレヴァークーゼン戦からユネスと2列目で併用されるようになると、以降のリーグ戦は8勝1分とチームがさらに勢いを増した。

 ただ勝利数が増えているだけではない。第11節までで「16」にとどまっていたチーム得点数が、第12節以降の11試合では「29」とほぼ倍増。鎌田やユネスはゴールやアシストという数字に残る直接的な貢献のみならず、アシストにつながるような決定的なパスや仕掛け、いわゆる「アシストのアシスト」でも攻撃面に大きなアドバンテージをもたらしている。

 ヒュッター監督はバイエルン戦前の記者会見でチーム状態が劇的に改善した要因について「(守備時に)中央が空きすぎていた」と説明していた。

 鎌田とユネスの2列目コンビが定着したレヴァークーゼン戦以降、長谷部誠のポジションをセンターバックからセントラルMFに上げるなどの戦術的変更もあり守備面でカウンター耐性が大幅に向上。第21節終了時点のデータではあるが、独誌『キッカー』によれば、開幕から11試合で「13.6本」あった1試合あたりの被シュート数が、ボルシアMG戦以降の10試合では「8.5本」まで大幅に減少したという。

 守りが安定したことにより、攻撃面にも人と手間をかけられるようになった。そこに鎌田とユネスのクオリティや連係、ルカ・ヨヴィッチの復帰、コスティッチやアンドレ・シウバの好調が加わり、攻守両面の歯車が噛み合ったというわけだ。

「ダブル10番」と評されるが…

鎌田大地
【写真:Getty Images】

 ヒュッター監督は「(ボールを持って)サッカーをプレーする局面で鎌田に依存しすぎていた」とも語り、似たタイプのユネスを横に配置することで「プレーの幅を広げることができた」とも語った。

 いまや「ユネスはボールを前に進める局面において絶対的なキープレーヤー」であるともフランクフルトの指揮官は明かしている。ボールを持って1対1になれば独力で対面する選手を剥がすことができるクオリティを、最近の試合では存分に発揮している。

 鎌田も相変わらず重要な選手であり、監督も「アイメン・バルコクとの競争で一歩前に出ている」と認める。一時期先発の機会が増えていた22歳のモロッコ代表MFではなく、鎌田がユネスの相棒を任されている要因は「最近の試合で非常に優れた成績を収めているから」で、結果に直結するパフォーマンスを正当に評価されているのは間違いない。

 鎌田とユネスの2列目コンビは相性抜群だ。アヤックス時代からウィングでのプレーが多かったユネスが独力での局面打開やフィニッシュに優れているのに対し、鎌田はゲームメイクにも貢献しつつチャンスメイクで違いを発揮するタイプ。主たるプレーエリアが若干違う。

 ドイツでは「ダブル10番」と評されることもあるが、ユネスは「10番」に限りなく近く、鎌田は「10番」より「8番」に近いプレースタイルと言えるだろう。ポジションを数字で表す際に、「10番」はトップ下、「8番」はセントラルMFとして見られる。つまり鎌田は前線と中盤をつなぐ中間的なタスクをヒュッター監督から託されているのである。

鎌田が理想とする選手像とは?

 最近の鎌田のプレーやチーム内での役割は、彼自身の理想にも近づいている。ここ数年、ブレずに主張し続けてきた「鎌田大地」という選手が欧州で生き残っていくにあたっての理想形だ。昨年10月の日本代表活動中には、次のように話していた。

「僕は『6番』とか『8番』でやっていきたいというのは、サガン鳥栖の時から言っていて。僕がヨーロッパで、上の(レベルの)クラブでやるためには、そのポジションしかないなとずっと思っていたし、わかっていたというか。僕自身、足も速くないし、ヨーロッパでは前でスピードで仕掛けるというのが難しいので、『6番』だったり『8番』をずっとやりたいと思っていました。

いまフランクフルトでは(ポジションは)『10番』ですけど、基本的な役割は『6番』や『8番』をやっているので、僕自身がやりたいことにかなり近づいているし、自分が上に行くためにと考えた時に、それしか方法はないと思っているという感じですかね」

 一般的に「6番」や「8番」というと、「ボックス・トゥ・ボックス」でピッチ全体をカバーして守備にも攻撃にも絡む選手のイメージが強くなる。だが、鎌田の場合はハーフウェーラインから前で攻守両面に貢献する「ハーフ・トゥ・ボックス」のようなイメージだろうか。

 理想とするのは「中盤の割に得点に絡めたり、1個前のアシストができる」選手であり、「強いチームでは、『8番』のインサイドハーフの選手に結構攻撃的な選手が多い。守備ができないとダメというイメージがありますけど、上手い選手ってある程度守備もできる」と言葉に力を込めていた。

 フランクフルトでもカウンターで割られやすかった中央の守備を改善するにあたって、鎌田が継続して起用されたのも「守備」を強く意識していたから。「守備をとにかく頑張って、走る量を増やして、できるだけ対人に勝つ」という地道なチームプレーをこなしたうえで、攻撃に切り替わればゴール前に顔を出してゴールやアシストでも貢献するオールラウンドな選手に進化を遂げつつある。

 安定した守備からボールを奪い、全員で積極的にゴールに迫っていく、今のフランクフルトのサッカーは見ていて胸が熱くなる。11試合負けなしという好調において、前線の鎌田とユネスのコンビがバランスを保てているのも、これまでの取り組みがあってこそ。

 守勢に回る時間が多かったバイエルン戦でもチーム全体が決壊せず、チャンスをしっかり決めて勝ちきれたことで、フランクフルトにおける鎌田が理想とする成長曲線を描けていることを示せたのではないだろうか。24歳のサムライはドイツのトップレベルで別格の存在感を放っている。

(文:舩木渉)

【了】

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