「初めて指導者から…」。シュミット・ダニエル、急成長の裏にあったGKコーチの存在【GKコーチ原本・前編】

言葉でGKをデザインする! 全カテゴリーのGKを指導してきた日本屈指のGKコーチ澤村公康による、これまでになかった「GKコーチのための原本」。25年に渡る自身のGKコーチキャリアを辿りながら、GKの80%を占める装備すべき5つのマインドなど、“先手を取るGKマインド"を育むための要素がすべて詰まった唯一無二のGKコーチ大全『GKコーチ原本』(澤村公康著 3/17発売)の発売を記念して本書より一部抜粋して前後編で公開します。今回は前編。(構成:吉沢康一)

2021年03月17日(Wed)11時57分配信

text by 吉沢康一 photo Getty Images
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苦しめる要因となった「お前には将来性があるから」

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【写真:Getty Images】

 ゴールキーパーはメンタル的な強さも必要です。日本では消極的なイメージを持たれがちですが、実際は積極的なプレーが求められます。トップカテゴリーに近づけば近づくほど際立った個性を持った人間が多くなっていきます。ロアッソ熊本のゴールキーパーコーチ時代に指導したシュミット・ダニエル選手がまさにそうでした。

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 これまで見てきたどのゴールキーパーよりもダンは「自分はこうなりたい」という「目的達成意欲」が旺盛でした。僕と出会った頃はネガティブな考えも多かったとはいえ、マインドチェンジがあって次第に自分の思いを言葉にするようになっていきました。

 ダンは高校、大学時代から恵まれた体格と身体能力を併せ持っていたので、周囲から「将来性」という言葉を使われてきました。チームではレギュラーでもないのに選抜や代表に呼ばれ、「どうして僕が?」とダンが訊くと、その時には決まって「お前には将来性があるから」と言われていたようです。大一番の試合で実戦的な選手が試合に出てレギュラーから外れる時も、「将来性があるから」という言葉が使われていたらしいのです。

 ダンとは彼がベガルタ仙台の4番手の時、言ってみればどうしようもない状態の時に出会いました。それなのにダンは常に将来のことばかり言っていました。僕は目の前が整理できていなかったダンに、「将来は目に見えないから、今(見えていること)をしっかりやろう」「今足りないことと今やれていることは『これ』」と「現在」を整理していきました。するとダンは一気にマインドチェンジしていき、「目的達成意欲」がさらに増していったのです。

 ダンは目線を「現在」に置き、結果的に「現在」に足を着けたことで、「将来」到達するための道筋をはっきりさせていきました。それまでのダンは「3年後にはこうなっていたい」と言葉にはするのに、「次の試合はこうしたい」という具体的な部分がありませんでした。振り返れば当時のダンは公式戦に絡めない選手で、つまりプロとして「どうすればいいのか」が見えていなかったのです。

マインドチェンジでどう変わったか?

 ダンが試合に絡めない原因は技術ではなくメンタルにありました。ロングキックなら左右どちらの足でもメートルも蹴れる半面、前に飛び出していくとキャッチできるクロスボールを弾いてしまったり、シュートを防いでもキャッチができない場面が多々あったのです。

 僕は技術指導の前に言葉をかけました。「キャッチしないと得意のキックは披露できないよね?」とアプローチすると、「キャッチは守るためではなくボールを奪う手段」と気持ちを変えて一気にキャッチが良くなっていきました。それではダンがなぜボールをキャッチせずに弾くことを選択していたのでしょうか?
 
 それには、はっきりとした理由がありました。理由は簡単です。ミスをしたくなかったのです。ダンが熊本にやってきたばかりの頃、「今日の練習はどうだった?」と声をかけると答えはいつもネガティブなものでした。「今日はこれができなかった……」。あれもできない、これもできないばかりで良いことは一切言わないのです。

 僕は「長年ゴールキーパーコーチをしているんだからそれくらいはわかる。うまくいかないということではなくて、ダンがやろうとしたこと、トライしたことを聞きたいんだけど?」と言うと、「そういうことを初めて指導者から言われました」と驚いていました。

 ダンがマインドチェンジに要した時間は約2カ月。そのわずかな時間の中で彼は劇的な変化、成長を見せていきました。そして、この劇的な変化を振り返ると「予め」の能力が最も向上しました。「予め」とは「予測」「予想」「予備」「予感」「予知」といったことができる力です。マインドがネガティブからポジティブに変わると、受け身から仕掛けていくスタイルにプレーも変わり、結果として「予め」の能力が短期間に変化していきました。

その変化を目の当たりにして、僕はプロでも自分からプレーを仕掛けていけるようになると、もともと高い潜在能力を持っているだけにより大きく変わることができるんだ、と感じました。サンフレッチェ広島で指導した大迫敬介にもダンと同じことを感じました。

(構成:吉沢康一)

澤村公康(さわむら・きみやす)

1971年12 月19日生まれ、東京都出身。現役時代は三菱養和SCユース、仙台大学でプレー。1995年に鳥栖フューチャーズの育成GKコーチとして指導者のキャリアを開始。その後はブレイズ熊本(育成)、大津高校、日本高校選抜、浦和レッドダイヤモンズ(育成)、女子日本代表、川崎フロンターレ(育成)、青山学院大学でGKコーチを歴任。2012年から2014年まで教員として浜松開誠館中学校・高校でGKを指導。2015 年から2018 年までロアッソ熊本、2019 年はサンフレッチェ広島でトップチームのGKコーチを務めた。現在は代表を務めるGKスクール『ゴーリースキーム』など、さまざまなカテゴリーでGKの育成、指導にあたっている。著書に『ジュニアからシニアまでサッカーが楽しくなる攻撃的GK論』(ベースボール・マガジン社)、『守護神育成トレーニング ゴールキーパー専属コーチが伝える! チームを守る全てがここにある!』(スタジオタッククリエイティブ)、『ゴールキーパー「超」専門講座』(東邦出版)、2021 年3 月 17日に『GKコーチ原本 “先手を取るGKマインド”の育て方』をカンゼンから刊行

9784862555892

『GKコーチ原本 “先手を取るGKマインド”の育て方』


≪書籍概要≫
澤村公康 著
定価:2310円(本体2100円+税)

言葉でGKをデザインする!

全カテゴリーのGKを指導してきた日本屈指のGKコーチ澤村公康による、これまでになかった「GKコーチのための原本」。
25年に渡る自身のGKコーチキャリアを辿りながら、GKの80%を占める装備すべき5つのマインドなど、“先手を取るGKマインド”を育むための要素がすべて詰まった唯一無二のGKコーチ大全。

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【了】

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