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ブンデスリーガの消えた逸材たち。天国から地獄へ…才能を開花させられなかった5人の選手

シリーズ:編集部フォーカス text by 編集部 photo by Getty Images

うつ病も経験。新型コロナに直面し…

マルティン・フェニン
【写真:Getty Images】



マルティン・フェニン(元チェコ代表)

生年月日:1987年4月16日
現所属クラブ:現役引退(2018年1月)

 2007年のU-20ワールドカップ決勝、フェニンは見事な反転ボレーシュートで強豪アルゼンチンから先制点を奪って見せた。大会を通じて3得点を挙げたチェコの天才が脚光を浴びたのは、間違いなくこの大会だ。

 そして同年12月、名だたるビッグクラブが関心を示す中でフランクフルトを移籍先に選び、デビュー戦となった翌2008年2月のヘルタ・ベルリン戦でいきなりハットトリックを達成。そのまま右ウィングで定位置を掴み、ブンデスリーガ挑戦1年目は後半戦だけでリーグ戦17試合出場6得点2アシストと強烈なインパクトを残して終えた。

 続く2008/09シーズンも順風満帆だった。主力としてリーグ戦31試合に出場して5得点11アシストと目覚ましい結果を残す。将来は明るいと誰もが疑わなかった。ところが監督交代によって運命は大きく動き出す。2009/10シーズンから就任したミヒャエル・スキッペ監督はウィングを置かないシステムを採用し、フェニンをベンチに追いやった。

 1年半以上経った2011年3月にスキッペ監督が解任され、アルミン・フェー新監督になっても出番が劇的に増えたわけではなく、フェニン自身も負傷続きで状態を落としていた。そして2011年夏にカテゴリを落とし、ブンデスリーガ2部のエネルギー・コットブスへの移籍を決断する。

 新天地で挑戦を始めて約3ヶ月経った2011年9月、事件は起こった。大量のアルコールと睡眠薬を服用していたチェコ代表FWは、あろうことか滞在していたホテルの2階の窓から転落して負傷。さらに、うつ病に苦しんでいたことも明らかになり、長期離脱を強いられた。

 2012年3月、満を時してピッチに帰還したフェニンだったが、プレーの輝きを取り戻すことができず。2012/13シーズンはリーグ戦3試合の出場にとどまり、セカンドチーム行きも経験。2013年夏に母国チェコへの復帰を決断し、スラヴィア・プラハに加入した。

 ところが慣れ親しんだチェコでも精彩を欠き、同国1部のテプリツェを経て、フランス3部のイストレスFC、ドイツ3部のケムニツァーFC、チェコ2部のFKヴァンスドルフと転々としたのち、2018年1月からは無所属となって30歳の若さで事実上の現役引退状態になっている。

 かつてうつ病に苦しんだフェニンは、ドイツ時代に交通違反など数々の問題行為を起こし、チェコ帰国後はアルコール依存症に。無所属となった2018年4月には酒に酔った状態でテレビ番組に出演し、放送禁止用語を連発する愚行にも走ったという。

 ただ、現在は心を入れ替えたようだ。父が建築家で母と祖母は医師、パートナーが警官だというフェニンは、新型コロナウィルスの流行を受けて「プラハ市の赤十字にヘルパーとして登録してもらった」と、古巣フランクフルト公式サイト内のインタビューで明かしている。

 ヘルパーはスマートフォンのアプリ上で依頼を受けて、スーパーマーケットや薬局での買い物などの代行をこなすとのこと。「何もしないで家にいるのを恥に感じた」という元問題児は古巣への愛着なども語っている。30代になって、選手としての重圧からも解放され、精神的に落ち着いてきたということだろうか。

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