売り込み、契約、語学…。想像を超えるプロサッカー選手のリアルから学ぶ【サッカー本新刊レビュー:蹴るように読む(4)】

2021年11月20日(Sat)10時00分配信

シリーズ:サッカー本新刊レビュー
text by 陣野俊史 photo Getty Images
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9回目となる小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を選定。この新刊レビューコーナーでは、2021年に発売された候補作にふさわしいサッカー本を随時紹介して行きます。




『フットボーラー独学術 生きる力を自ら養う技法』



(カンゼン:刊)
著者:柴村直弥
定価:1,870円(本体1,700円+税)
頁数:336頁

 著者は、プロサッカー選手として12年間、活動した。派手なキャリアがあるわけではない。日本代表になってスポットライトを浴びたこともない。だが、普通のサッカーの能力の持ち主だった著者は、様々な試行錯誤を繰り返しながら、少しずつハードルをクリアしていった。そのプロセスを記したのが本書だ。

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 もちろん成功体験ばかりが書いてあるわけではない。広島皆実高校に進学するが、体育科ではない。まったく試合に出られない日々。だが自分なりの練習メニューを考えクラブのなかでステップアップした。

 中央大学商学部に進学。大学4年時はJクラブにアプローチしようと考えていたので、3年までに必要なすべての単位を取得するように計算した(これ、大学教員の立場として言わせてもらえば、とても賢い選択!)。アルバイトを管理し、他人の自分への評価を冷静に受け入れる。プロになるために必要な金額を算出する……。プロの契約の三つのパターンや、最初の年収、欧州クラブへの売り込み方、自分のプレースタイルの映像作成、通訳がいないことを前提とした語学習得、などなど、役に立つことが文字通り沢山書いてある。

 著者は大学を出たのち、幾つかのJクラブを経て、ラトビア、ウズベキスタン、ポーランドのクラブでプレーし、帰国。現在は、コンサルタント業務をこなしながら、サッカー関連の多様な仕事(講演や解説を含む)を行っている。

 スケジュールとコンディションの管理が肝、という言葉が本書中の至言かもしれない。だがこの言葉だけでは絵に描いた餅にすぎない。著者が経験してきた「スケジュール」と「コンディション」がいったいどのような内容を含んでいて、それをどう咀嚼してきたのか、その具体例を読者は経験することになるだろう。

 ラトビアのプールサイドで契約をする、など、リアルな体験は想像を超えているし、著者がつねにその場面を一つの段階と捉え、次のステップアップを考えていることも、大切なことだろう。サッカーを真ん中に、人生は続く。そして人生が続く限り、人はステップを踏み続けなければならない。

(文:陣野俊史)

陣野俊史(じんの・としふみ)
1961年生まれ。文芸批評家、作家、フランス語圏文学研究者。現在、立教大学大学院特任教授。サッカーに関わる著書は、『フットボール・エクスプロージョン!』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)、『サッカーと人種差別』(文春新書)、共訳書に『ジダン』(白水社)、『フーリガンの社会学』(文庫クセジュ)。V・ファーレン長崎を遠くから応援する日々。

【了】

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