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Jリーグ 2年前

下平隆宏監督は何が凄いのか? 参謀が明かす大分トリニータ指揮官の決断力【指導者は「伝え方」で決まる・前編】

text by 清水英斗 photo by Getty Images

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現在、J2大分トリニータでヘッドコーチを務める岩瀬健は、2018年に柏レイソルで2試合、2021年に大宮アルディージャで15試合、Jリーグで指揮を執った経験を持つ。そして、大分では2020年に片野坂知宏監督を、今シーズンは柏時代にも共闘した下平隆宏監督をヘッドコーチとして支えている。監督とそれを支えるヘッドコーチのどちらも知るこの男は、その役割の重要性を誰よりも知る人物の1人かもしれない。サッカーにおける参謀について特集した6月6日発売の『フットボール批評issue36』では、岩瀬へのインタビューを敢行。今回は特別にその一部を抜粋し、前後編に分けて公開する。(インタビュイー:岩瀬健、文:清水英斗)



監督経験があるからこそ柔軟に対応できるように

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【写真:Getty Images】

――選手への伝え方以外に、大宮で監督を経験したことで、下平さんをどうサポートするか、やり方が変わった部分はありますか?

「あります。とにかく正直に伝えますね。今の関係で言えば、GKコーチが1人、フィジカルコーチが1人、コーチが2人、そして僕の合計5人のコーチングスタッフがいますが、もしも仮に4人の意見が揃っていたとしても、僕が逆の意見であれば『ひとつの意見ですが……僕はこっちだと思いますね』と正直に言いますね。以前よりも忖度がないです」

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――それは下平監督だから?

「もちろん下さんとの信頼関係もありますが、僕が監督の時にやっぱりコーチの正直な意見を聞きたかったからですね」

――監督経験者だからこそ、察する部分ですね。

「他の部分で言えば、試合で想定外のことが起きた時、練習でやっていないことをやる必要に迫られることもあります。ただ、想定外のことは決めづらいし、決断に覚悟もいるから、『やりましょう!』と一押しできるかもしれないですね。もちろん、変更したとしても難しいことが想定されるのであれば、正直に『難しいと思います』と伝えますが、気持ち的には難しい決断こそ後押しをしたいです。

 たとえば、今シーズンの試合でも、試合終盤に4バックから5バックに変更したことがあります。それは交代カードの選択肢として、試合前にも共有していましたが今週の練習ではやっていない。それを下さんが選んだ時、『行きましょう』と後押しはしましたけど、練習でやっていない選択肢を決断する、あの瞬間的な速さ。すごいなと思いつつも、きっと選手のことを本当に信頼しているから、ですね。

 他にも交代カードを切るタイミング、練習でやっていないポジションに選手を移したり、そういう決断の速さから学ぶことは、とても多いです。

 アウェーの仙台戦でも2対0から、2対1に追い上げられて、その状況でエドゥアルド・ネットを入れたんですよね。僕も一瞬ためらったし、上で見ていたスタッフも驚いたそうです。でも下さんは『交代しよう、いけるから』と。そうしたら、そのエドゥアルド・ネットがフリーキックを決めて、3対1で勝った」

『フットボール批評issue36』

<書籍概要>

定価:1650円(本体1500円+税)

特集:参謀がサッカーチームを決める

「未来予想図」を作れない軍師はいらない

「参謀」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは“残念ながら”牧野茂だ。プロ野球・読売ジャイアンツの川上哲治監督を戦術面で支え、前人未到のV9を成し遂げたのはあまりにも有名である。組織野球の技術書『ドジャースの戦法』をそれこそ穴の開くほど読み込み、当時の日本では革新的な組織戦術でセ・パ両リーグの他球団を攪乱していった。しつこいようではあるが、サッカーチームの参謀ではない、残念ながら。

言い換えれば、すなわち日本のサッカー界で誰もがピンと来る参謀はいまだにいない、ということだ。世界に目を向けると、クロップにはラインダース、ペップにはリージョ、アンチェロッティには息子ダヴィデと、参謀の顔が瞭然と見える。今や参謀がチームの行く末を決定づけているなかで、日本ではそもそも参謀の役割すら語られることがない。日本から名参謀を生むためには、参謀の仕事をまずは理解することから始めなければならない。

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【了】

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