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【三笘薫の解体新書/後編】エムバペと同じカテゴリー。「完成形に近い」姿勢の本質とは?

text by 石沢鉄平 photo by Getty Images

三笘薫は完成形に近い?



「ドリブラーを3つに分類すればフランスのキリアン・エムバペ選手と同じカテゴリーとなります」と、日本人が喜びそうなキャッチーな言葉を紡ぐと、里はこう続けた。

「ストライドが大きいドリブラーは、つまり速いドリブラーとなります。ところが、速いだけで歩幅を狭く(ピッチ走法)できなければ急に減速できず、ギュッと止められません。三笘選手は減速するスピードも速い。つまり、加速と減速をほとんど同じ回転数で調整できている証拠で、三笘選手はストライドとピッチの2つを併せ持ったドリブラーとなります。エムバペ選手もストライドとピッチの2つを持っています。完成形に近いドリブラーといってもいいでしょう」

 三笘の仕掛け方を見ていると、急加速で相手DFを置いていきながら、直後に減速しそのDFと一旦対峙するパターンが多い。この仕掛け方に関しては、「自分のタイミングでなくとも走り勝てるといったように、三笘選手は加速を焦っていません。おそらく速度には自信を持っているのでしょう」と分析する。

 里は図1のようにアビリティ(能力)、テクニック(技術力)、スキル(判断力)=本質の表出であるパフォーマンス(現象)を構成する項目を9つにカテゴライズしている。里独自の「パフォーマンスチューブモデル」さえあれば、三笘以外の選手、もちろん他競技の選手も「評価」できてしまう。ちなみに「競走馬のサラブレッドもキャンター(駈走)であれば評価はできます」とも。

 里がとにかくこだわるのはやはり本質の部分だ。現象だけを見てしまうと誤解を生むことになりかねない。三笘の本質を例に、里は以下のように話す。

「例えば、三笘選手の前傾姿勢の本質を理解していないと、指導者は子どもたちに『加速するために前傾姿勢をしなさい』と伝えることになってしまいます。そうではなく、『正しい姿勢で加速すれば自然と前傾姿勢になる』。これが私の言う本質です」

 最後は「里の本質」を表すフレーズで締めたい。「本質」を知ると、「現象」が見えるようになり、「評価」できるようになり、「できる」ようになる。

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プロフィール

里大輔(さと・だいすけ)
1985年9月12日生まれ、長崎県出身。スピードコーチ・パフォーマンスアーキテクト。株式会社SATO SPEED代表取締役。陸上の短距離(100メートル)選手時代はジュニアオリンピック、全日本中学生大会などで優勝。大学・実業団陸上競技部の監督を経て日本ラグビー協会のスピードコーチとしてさまざまな代表カテゴリーを指導しながら、サッカー、陸上、野球、バレーボール、バスケットボールなど、さまざまな競技、年齢、国籍のチーム・選手を指導。2019年に日本ラグビー協会コーチングアワード日本代表カテゴリー賞を受賞し、20年にはフランスラグビー協会から招待を受けた。23年は日本ラグビー協会、NECグリーンロケッツ東葛(ラグビー)、明治大学(ラグビー)、NECレッドロケッツ(バレーボール)、サンフレッチェ広島ユース(サッカー)でパフォーマンスやスピードの指導を行う。著書に『RUN FAST! 「走り方」の本質』(東洋館出版社)。

書籍情報

『身体動作解体新書 現象を本質的に分解してパフォーマンスを上げる』

定価:本体1800円+税
どうすれば速く走れるのか、どうすれば高く跳べるのか、どうすれば強く蹴れるのか――。「本質」を知ると、「現象」が見えるようになり、「評価」できるようになり、「できる」ようになる。ラグビーをはじめさまざまな競技のチーム・選手のパフォーマンスを飛躍的に向上させたパフォーマンスアーキテクト・里大輔による本質的「身体動作のガイドライン」。

【了】

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