「もうどうなってもいいや」が意味するもの
「無意識でした」
何も覚えていなかった。人違いをしていたのかとこちらが自分を疑うほど、清々しいまでに。
それでも、他の質問に答えたうちのある一言から、あの表情を見せていた理由をうかがい知ることができた。
「もうどうなってもいいやと思って、今日は」
AFCチャンピオンズエリート(ACLE)に臨む前、山根は第11節までリーグ戦12試合中8試合に出場し、ACLE前最後の浦和レッズ戦ではゴールも決めていた。しかし、帰国してからこの2試合はベンチスタートが続いている。山根のスタメン出場が続いたことと喜田拓也が負傷や脳震盪の影響で離脱していたことは無関係ではなかったはずだが、パトリック・キスノーボ新監督は2試合続けて喜田と渡辺皓太をスタートのピッチに送り出している。
思うことがないわけではない。ただ、山根は邪念を除外し、与えられた時間で自身にできることを出し切ることだけに集中していた。
前半、ビルドアップから整理された攻撃を展開する柏に対し、守る仲間たちをピッチサイドで見ながら呟いた。
「これは耐えるしかないな」
後半はどう修正するのか。ウォームアップをしているためロッカールームでは聞けないキスノーボ監督の指示が気になったが、出番が来たらとにかく流れを変えようと思っていた。同じような気持ちをベンチのチームメートからも感じながら、体を温める。
チームが先制を許したのは56分、山根はウォームアップのためその瞬間はピッチを見ていなかった。それからすぐ、遠野大弥、ヤン・マテウスとともにキスノーボ監督に呼ばれる。前半を見た感想とは違う感情が沸き上がってきた。