それこそがいまの横浜F・マリノスに必要なプレーではないか
走行距離は湘南の小野瀬康介にわずか8mだけ及ばなかったものの、両チームで2番目、チーム最多を記録した。好調とは言えない時期もその数字自体は出していたし、走行距離は長ければいいというものでもない。とはいえ、この試合の渡辺は明らかに走れていた。
セカンドボールに対する予測、反応も早く、球際の強度も高い。ときに中盤で、ときにポジションを下げてDF陣を助けながらボールを受けると、スペースにボールを送り、自らも走る。その矢印の多くは、前だった。状況を動かす、あるいはチームを助ける意図的なプレーが目立った。
それこそがいまのマリノス、ひいてはアタッキングフットボールに必要なプレーではないか。
相手よりも走り、前線から激しく追い、球際で強度高く闘う。アタッキングフットボールとはただ攻撃を意識することでもボールを大事にすることでもない。原理・原則があるからこそ相手を押し込むことができるし、ボールを失っても即時奪還して再び攻撃に転じることができる。言い換えれば、原理・原則のない形骸化したアタッキングフットボールは、カウンターを狙う相手の餌食でしかない。
渡辺にとっては、自分らしくプレーした結果だ。ただ、そもそもアタッキングフットボールに適合すると評価され、15年ぶりにリーグ優勝を果たす19年のシーズン途中に迎え入れられた選手だ。渡辺が持ち味を出せば、再びアタッキングフットボールに舵を切るチームが湘南戦の特に後半のように相手を圧倒するのも自然な流れと言える。
渡辺自身が最も欲していたチームの結果は得られなかった。その悔しさが試合後の行動や表情に出た。
それでも、チームの戦いにも光は見えた。
「本当にあと一歩のところまで来ている。もう少し詰めて、チーム全員が同じ方向を向いていければ、必ず勝ち点3は取れると思う。勝てなかったからそのままネガティブになるんじゃなくて、ポジティブにやっていきたい」
ゴール裏のサポーターへのあいさつを終えてもなお、表情を歪ませていた渡辺に気づいたのは、喜田拓也だった。渡辺は肩に手を回され、声を掛けられた。