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Jリーグ 9年前

本当の意味での「ウルトラマン」へ。松本山雅のホープ、前田直輝が開花させる“救世主”の力

text by 藤江直人 photo by Getty Images

「まだまだ“惜しい選手”で終わっている」

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前田は自身を「まだまだ“惜しい選手”で終わっている」という【写真:Getty Images】

 たとえどんなに素晴らしい才能をもっていても、ハードワークを体現できるフィジカルとメンタルがなければ宝の持ち腐れになる。『フットボールサミット第31回 雷鳥は頂を目指す』におけるインタビュー取材で、反町監督は独特の表現で前田にこう言及している。

「いままでは自分の好きなことだけをやっていればいい、というプレースタイルだった。ただ、(直輝を含めた)選手たちによく言っているのは、サッカー界でそんな特権を与えられているのはメッシだけだぞと。メッシの領域まで到達できないのならば、攻撃でも守備でもチームのために必要なことをしっかりやらなきゃいけないと常々伝えてきた」

 ヴェルディではお山の大将的な存在だった。子どものころから慣れ親しんだチームを飛び出し、過酷な環境に身を置いたときに、前田は初めて自分自身を見つめ直すことができた。

 前田の現状に対して、クラブ関係者が冗談まじりで「彼は更生中」と言ったことがある。独り善がり的なプレーが、まさに献身的なそれに変わりつつある過程にいたことを指していたのだろう。

 ベルマーレとの天皇杯。後半に入って2点をリードすると、前田はマイボールになるたびに前線へ飛び出し、左右のタッチライン際で体を張る仕事に徹した。

 ボールキープに徹し、味方の攻め上がりを待ってカウンターの起点になる。あるいは、自ら仕掛けてドリブルで抜け出し、チームにさらなる前への推進力を与える。

 余計なシザースフェイントを試みてボールを失い、逆にカウンターを食らう場面もあった。それでも、前田のこの言葉を聞けば、ホープの思考回路が猛スピードで変化を遂げていることがわかる。

「まだまだ“惜しい選手”で終わっている」

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