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Jリーグ 8年前

最下位転落も貫く「湘南スタイル」。次のステップに向け、監督と経営者が共有するビジョン

text by 藤江直人 photo by Getty Images

小さいクラブなりにもってきた思い

 結果として存続した育成組織から台頭してきたのが、先のリオデジャネイロ五輪でU-23日本代表のキャプテンを務めた遠藤航(現浦和レッズ)であり、今シーズンの副キャプテンを務めるMF菊池大介であり、4-0で快勝した22日の徳島ヴォルティスとの天皇杯3回戦でプロ初ゴールを決めたMF齊藤未月、2種登録選手ながら先発として抜擢されたDF石原広教の17歳コンビだった。

 つまり、「湘南スタイル」とは湘南ベルマーレとして2000年から紡いできた歴史のなかでようやく手にしたアイデンティティーとなる。J3を含めれば6つのJクラブがひしめきあう激戦区・神奈川県で、ベルマーレが生き残っていくための羅針盤でもある。

 たとえ一時的でもそれを捨て去った時点で再びゼロからのスタートを余儀なくされ、価値観を共有してきたファンやサポーター、支援するスポンサー企業との絆にも微妙な影を落としかねない。

 曹監督は原則的に「3‐4‐2‐1システム」で戦ってきた。一方で半永久的に監督を務められるわけでもない。自身が去れば戦い方も変わることも踏まえたうえで、指揮官は著書のなかでこうも著している。

「過去から現在をへて未来へとつながる数十年という歴史のなかで、この先、僕が湘南からいなくなったとしても、前へ進むための羅針盤として『湘南スタイル』を合言葉にしてもらえれば、これほど幸せなことはない。監督が代われば、サッカーのやり方も変わるだろう。

 しかし、それはあくまでもピッチ上に限定されたことだ。見ている側もプレーしている側も面白いと感じられるサッカーを共有していく姿勢だけは、湘南独自のテーマであり続けてほしいと思っている」

 貫き続けてきた決意と覚悟が、あらためて曹監督の言葉として発せられたアビスパ戦後の公式会見。現場を預かる曹監督とともに、車にたとえれば両輪を形成する眞壁会長も決意を新たにしている。

「予算が15億円のクラブが末永く生き残ろうとするのならば、引いてカウンター狙いに徹したほうがリスクは取らない。そうではなく、小さいクラブなりに『日本のサッカーを強くしよう』という思いをもって進んできたからこそ、選手も成長してきた。

 今シーズンを見ても曹は神谷をしっかりと起用しているし、来シーズンは杉岡も入ってくる。そういうクラブが次のステップに進むためには、経営規模を大きくすることを経営者がもっと真剣に考えないといけない。そうじゃないと現場が必死に積み上げても、主要な選手を抜かれてまた下がる。これの繰り返しになってしまう」

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