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なぜ日本人選手は海外へ出ていくのか――日本の若者がリスクをとらない理由

text by 橘玲 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography , Getty Images

リスクとリターンを見極めるサッカー選手たち

 海外で活躍するサッカー選手を見れば、私が「内向き」論を疑うその理由は、よりはっきりする。「日本の若者は内向きだ」という議論が正しいとすると、「若者の中でもサッカー選手だけは特別だ」ということになる。しかし、運動能力とはまったく別に、「外向き」の子どもしかサッカー選手として成功できない、などということがあり得るだろうか。

 日本の若者が「内向き」でサッカー選手が「外向き」の矛盾は、もっとシンプルに理解可能だ。

 欧州のクラブから声がかかるほどの選手なら、Jリーグでプレーすれば安定した出場機会と収入が得られることは間違いない(ローリスク・ローリターン)。それに対して文化も習慣も異なる海外では言葉も通じず、出場機会すら与えられないかもしれない(実際、これまで多くの優れた日本人選手が挫折を味わってきた)。

 それでも多くの若いサッカー選手がヨーロッパを目指すのは、成功したときに得られる報酬(金銭だけでなく名誉や評価)が桁外れに大きいからだ(ハイリスク・ハイリターン)。彼らはこのリスクとリターンを冷静に秤にかけて、勝算があると確信できたからこそ海を渡ったのだろう。

 K‐POPのアイドルたちが日本を目指すのもこれと同じだ。

 韓国の音楽マーケットの規模は、日本の20分の1以下だという。若いアイドルが海外に目を向けるのは、韓国人が生来外向きだからではなく、彼らの才能に国内市場の規模が見合わないからだ。サッカーも同様で、Kリーグでレギュラーになっても収入に限界がある以上、選手たちはJリーグやヨーロッパリーグを目指すしかない。

 このことから、日本の若者が内向きに見える理由はものすごく簡単に説明できる。

 若手社会学者の古市憲寿が『絶望の国の幸福な若者たち』で示したように、内閣府の「国民生活に関する世論調査」(2010年)によれば、20代男子のうち「いまの生活に満足している」と答えたのは65.9%で、この比率は1970年-90年に比べて10年間で15%近くも急上昇している。20代女子の生活満足度は75.2%と男子よりさらに高い。いまの若者は、1980年代のバブル最盛期の若者たちよりもずっと「幸福」なのだ。

 長い不況と震災に苦しんでいるとはいえ、日本はいまだにGDPで世界3位の経済大国だ。彼らは日本の将来に夢は持てないかもしれないが、現状において絶望もしていない。だとしたら、海外で大きなリスクを取るよりも、ぜいたくを言わずにそこそこ暮らしていける日本の方がいいと考えるのは当然なのだ。

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