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なぜ日本人選手は海外へ出ていくのか――日本の若者がリスクをとらない理由

text by 橘玲 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography , Getty Images

外的要因によって内向きにも外向きにもなる

 経営学では、日本的雇用(ローカルルール)とアメリカ型雇用(グローバルスタンダード)の違いを、独自仕様と標準仕様として説明する。

 ガラパゴス化した携帯電話(ガラケー)が象徴するように、日本企業は独自仕様にこだわり、他社製品と部品の互換性がない。求められる人材も、会社内の独自の文化(人間関係や書類の書き方、会議の手順など)に最適化した「内向き」のひとたちで、彼らの技能は同業種であっても会社が変われば役に立たないから、転職はきわめて困難だ。

 それに対して汎用型のパソコンは部品の仕様が統一されていて、品質基準さえクリアしていれば、中国や台湾、東南アジアのどこからでももっとも安い部品を購入して製品化できる。こうしたグローバル企業では、人材の基準も経験や資格によって一般化(標準化)されていて、流動性のある労働市場からいつでも必要な人材を補充し、業績が悪化すれば人材を労働市場に戻す(成長企業や成長産業がその人材を採用する)。グローバルスタンダードの雇用制度では、転職がずっと簡単だ。

 Jリーグは、試行錯誤はあったものの、設立当初からグローバルスタンダードを導入したために、海外に移籍(転職)した選手はプロ野球に比べて、ずっと早く新しい環境に適応できた。もちろん海外で成功にするにはさまざまな苦労があるだろうが、サッカーというスポーツそのものがガラパゴス化を排除したグローバルな「外向き」であることが彼らを後押ししたことは間違いない。

 このことからわかるように、グローバルスタンダードの教育を受け、日本よりも海外に大きなチャンスがあると思えば、日本の「内向き」な若者たちも積極的にリスクをとって海外を目指すに違いない。

 明治・大正や昭和初期には、多くの日本人が決死の覚悟でアメリカやブラジルに渡った。これは日本が貧しく、農家の次男や三男は生きていく術がなかったからだ。終戦後にアメリカの大学に留学する日本人が増えたのは、欧米と日本の差がまだ大きく、海外の知識を日本に持ち込むだけで大きな利益(や名声)を手にすることができたからだろう。

 外的な環境が変われば、海外で活躍する日本人サッカー選手のように、日本人はふたたびリスクをとるようになる。

 もっともそのときは、日本国内では生きていくことができないような、そんな世界になっているかもしれないが。

【了】

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