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サッカーからフィギュアスケートの世界へ。ソチ五輪を目指したイルハンの挑戦を追う

text by いとうやまね photo by Getty Images

怪我と芸能界。サッカーへの未練

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イルハンは甘いマスクで一世を風靡した【写真:Getty Images】

 2002年の日韓W杯では、控え選手ながら、チーム最多となる3得点を挙げ、トルコの3位躍進に貢献した。ところが、当時話題になったのは、彼のプレーではなく容姿のほうだった。

 やや東洋風なイルハンの顔立ちは、すぐに日本人女性の心を掴み、あっという間にアイドルになってしまった。女性週刊誌やワイドショーでは連日特集が組まれ、「イルハン王子」の愛称も定着。写真集やDVDまで発売された。

 W杯後は、古傷に泣かされることとなる。2004年にJリーグのヴィッセル神戸に移籍するも、膝の痛みが再発し、出場したのはわずかに3試合のみ。半年も経たずに無断で帰国し、そのまま退団となった。

 イルハンは、怪我のリハビリ中に、モデルや俳優の仕事をしていたこともある。ヘルタベルリンに所属していた2005年には、テレビの人気ファミリードラマや、ラブコメディにも出演した。

 実は、アイススケートをはじめた後にも、俳優業は続けていた。中でも、人気ドラマシリーズ『ドクター』では、ハンサムな入院患者を演じ、イルハンが息を引き取る回には、多くのトルコ人女性が、涙したという。

 演技の才能があったのかどうかはわからない。が、2008年には『防波堤』というドラマで、初めての主演にも抜擢された。若きエンジニア役で、友人の死や、故郷で漁師をしている父との確執、幼馴染みとの恋、三角関係など、難しい役どころを見事に演じ切り、俳優としての評価を上げた。

 ところが、この時本人の中には、まだサッカーへの思いがあったのだという。怪我が原因とはいえ、フェイドアウトのような形での引退に、自分自身が納得出来ずにいたのである。また、スケートのレッスンをしているうちに、足の調子が戻ってきたような気がしたのだ。もう一度自分に挑戦したくなり、2009年、2部の1860ミュンヘンでトレーニングを始めた。

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