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サッカーからフィギュアスケートの世界へ。ソチ五輪を目指したイルハンの挑戦を追う

少し伸ばした前髪を後ろに束ねたチョンマゲ姿。甘いマスクに鍛え上げられた見事な身体。2002年W杯「イルハン王子」の愛称でブレイクした、元トルコ代表FWイルハン・マンスズ。その後彼は何をしているのか。足跡を追った。(原稿執筆2013年7月)

text by いとうやまね photo by Getty Images

【欧州サッカー批評8】掲載

フィギュアスケーターというセカンドキャリア

 38歳になったイルハン・マンスズは、以前より若干肉付きもよくなり、短髪に、短めの髭を口と顎に蓄えている。「かわいい!」と言われていた頃からすると、格段にワイルドな風貌だ。

 2014年2月にロシアのソチで開催される冬季五輪のトルコ代表を目指してトレーニングに励んでいる(原稿執筆は2013年7月)。種目はフィギュアスケートのペア部門だという。にわかには信じがたいが、どうやら本気で目指しているようなのだ。

 引退を迎えたサッカー選手は、サッカー関係の仕事を目指す場合が多い。生まれてこの方サッカーしかしていないので「潰しが効かない」というのも理由のひとつではある。

 トップクラブの指導者やテレビ解説者は狭き門で、言わばエリートコースだ。たいていは裏方の仕事で、華やかさからは程遠い世界が待っている。一方、あえてまるで別の職業に就く人もいる。それにしても、「別の競技でオリンピックを目指す」というのは、あまり耳にしたことがない。しかも、その競技がフィギュアスケートだというのだから、さらに驚きである。

 フィギュアスケートと言えば、一般に英才教育が最も必要とされる種目と言われる。競技者のほとんどが、幼少時からレッスンを始めている。また、芸術性が重視されるため、並行してクラシックバレエを習うことが多い。

 テクニックと筋力と表現力を持ってして、なお頂点に上り詰めるには十分ではない。フィギュアスケートのトップアスリートは、まさに奇跡の存在といっても過言ではない。そこにいい年をした初心者が割って入るというのだから、特殊としか言いようがない。

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