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日本代表 10年前

ザックジャパン回想録。試練を乗り越え成長、主力不在の最終ラインを力強く支えた吉田麻也

text by 元川悦子 photo by Getty Images

痛み止めを打ってのイラク戦。高い集中力での勝利に安堵

 そして迎えたイラク戦本番。ザック監督は案の定、伊野波をスタメンに送り出した。ベネズエラ戦、UAE戦では右ひざの違和感を訴えていたが、彼自身もこの日ばかりはコンディション不良のままプレーするわけにはいけない。

 痛み止めの注射を打ってピッチに立った。攻撃陣では香川真司が腰痛を訴えて急きょ欠場し、清武弘嗣が2列目に入るというアクシデントも起きたが、吉田は最終ラインをしっかりと安定させつつ、アタッカー陣を後ろから後押しするという大きな仕事を担った。

 イラクのジーコ監督が才能ある若手を積極起用するという大胆策に打って出て、日本は序盤から苦しめられたが、吉田ら守備陣は高度な集中力を披露し、相手を跳ね返し続けた。

 そんな前半25分、右MF岡崎慎司が巧みな動き出しで右サイドバック・駒野からのスローインを受けて抜け出し、中央に鋭いクロスを入れた。ここに反応したのが前田遼一。彼のヘディングシュートがネットを揺らし、日本は待望の先制点を手に入れる。

 後半になってイラクはエースのユーヌス・マフムードらを投入して反撃に出るが、日本は最終ラインの粘り強いディフェンスで守り切る。結局、前田の虎の子の1点を守り切り、ザックジャパンは勝ち点3を積み重ねることに成功。

 吉田も守りのリーダーとして大役を果たすとともに、新天地・サウサンプトンでの新たな一歩の弾みをつけた。

「今回はチームの選手層を厚くするという意味でも大事な一戦だった。ワールドカップに向けてもすごく大きな意味を持つゲームだったし、ブラジルにもまた一歩近づいたと思います。

 守備に関しては、いつもより長く準備する期間があったし、みんなで意思疎通を図りながらやってきたんで、何とか結果を出すことができたと思います」と、本人も心からの安堵感をのぞかせた。

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