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【連載】サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』<第二話>「味方を探せ」解任されたばかりの老将が残したメッセージ、突如目の前に現れた長身の金髪美少女、弱小貧乏クラブ社長の行く末は……

【第二話】模様替えへの依存 
Relying on the facelift

「敵?」
 ぼくの問いにチェシュラックは頷いた。
「代理人と強化部長の都合で選手を動かそうとするのを止めようとしたら、わたしはクラブの敵になった。どれだけの不正が潜んでいるかわからん」
「なんてこった」ぼくはため息をついた。「経営が厳しいから、みんなでがんばろうとしているのかと思っていた」
「危機感がないから危機に陥るのだよ」理(ことわり)を説くチェシュラックの眼には絶望があった。
「告発しましょう」
 そう言うとチェシュラックの顔が険しくなった。
「落ち着きたまえ。いますべてをあかるみに出したら対外的な信用はどうなる?」
「不正をそのままにしておいたら、それこそ信用をなくしますよ」
「それでもだ。よく考えてから動くんだ」ぼくはチェシュラックの言葉を噛み締めた。たしかに、いまはまだクラブの内情をよくわかっていないし、この件だってはじめて耳にしたばかりだ。それに自分の仕事はこのクラブを存続させることであって、つぶすことではない――そこまでは考えたが、いますぐ呑み込むのは難しい要求だった。
「でも、あなたの名誉はどうなるんです?」
 納得しないままに答えると、次のチェシュラックのひとことで、無理矢理に納得させられた。
「次の仕事場でいい成績を残すさ」そう言い残して会釈をし、この場を去ろうと踵を返しかけていたチェシュラックが振り向く。「銀星倶楽部はシュリンクするぞ。コストカットを繰り返し、それこそ街クラブ並に……きみこそ大丈夫か」
「やるしかありません」
「ライバルのインテルクルービを向こうにまわして? 彼らはいまやアジアの巨人になろうとしているのに?」
 それはこの数日、自分なりに銀星倶楽部の事情を知ろうと、松重に訊ね、新聞の記事を読み漁って得た知識でもあった。
 月光運輸グループの大半を掌中に収めた神足一歩は新会社を設立、銀星倶楽部とともに23区を代表するプロクラブだった東京インタースポーツクラブを買い取り、デスポルチーボ・インテルクルービと改名して拡大路線へと舵を切っていた。世界平和と民族融和のコスモポリタン思想を謳って海外進出の意思を示し、このオフにはワールドクラスの外国籍選手を複数獲得する大型補強が予定されている。一気にアジアレベルを飛び越えた戦力を持つことになるだろう。
「わかっています」
「ダビデがゴリアテに立ち向かうようなものだ。きみは巨人に投げるべき石を持っているのか」
 羊飼いの少年が大男を一撃で葬った故事ならぼくも知っている。少年ダビデのような必殺技なり秘密兵器があるなら教えてほしいくらいだ。
「それはこれから探します」
「そうか……」チェシュラックはひときわ大きく声を張り上げようと姿勢をただした。「戦いはいつでも内憂外患だ。内側を整えながら外敵に立ち向かわないといけない。味方を探せ。わたしに言えるのはそれだけだ」

続きは、サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』特設サイトで。

エンダーズ・デッドリードライヴ

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