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アジア 10年前

小野伸二、豪州ラストゲームは悔しい敗戦。現地に浸透した「Shinji Ono」、築いた確かな功績

text by 植松久隆 photo by Taka Uematsu , Nichigo Press

最大の目標「ファイナル王者」を置き土産にすることは叶わず

 もちろん、ポポヴィッチ監督の頭の中には、中2日で控える日本遠征(ACL広島戦・7日)のことがあったろう。しかし、ゲーム・キャプテンのトポー=スタンリーの負傷交代で今季初めてキャプテン・マークを巻いた小野は、この大事な試合のピッチに最後まで立っていたかったに違いない。

 愛するクラブへの最後の奉公に期するものがあっただけに、あのタイミングでの交代には小野自身にも釈然としないものがあったろう。

 試合終了をピッチ外で迎えた瞬間、天空を仰いだ小野の胸に去来したものは何だったのか――。

 それを聞きたくて、ミックスゾーンで小野を待ったが話を聞くことは叶わなかった。失意のWSWの選手の多くは試合後のミックスゾーンには姿を見せず、小野も記者たちが待っていた時には既に車中の人となっていたようだ。

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試合前日のファン・イベントでは、リラックスした表情を見せていた小野伸二【写真:Taka Uematsu】

 本人に話を聞けなかった以上は、その気持ちを推し量るしかない。いつもは応じる試合後の囲み取材に対応しなかったということが全てなのだろうか、言うに尽くせない何かがあったのか、気持ちに整理が付かなかったのか…。

 試合前日のファン・イベントで顔を合わせ、去り際に「がんばってください」と声を掛けると、自ら歩み寄り握手の手を差し伸べてきた小野。試合を翌日に控えリラックスしながら適度に緊張感の表れたとても良い表情をしていた。

 その時の表情と試合後の表情の落差を見るにつけ、WSWが逃してしまったものの大きさが身に沁みる。小野は最大の目標であった「ファイナル王者」のタイトルを置き土産にすること叶わず、ACLの移動のためにグランド・ファイナルの当夜のうちに、失意のままブリスベンを去った。

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