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ドルト爆発事件、そのときスタジアムは…。テロの“日常化”で、どこか緩んだ雰囲気に

text by 本田千尋 photo by Getty Images

狐につままれたような感覚

ドルトムントのチームバス
爆発事故の被害にあったドルトムントのチームバス【写真:Getty Images】

 スタジアムが混乱に巻き込まれることはなかった。BVBの公式ツイッターが随時情報を発信していたこともあり、携帯電話の電波が繋がりにくいところはあったが、ファンは各々が情報収集に努めていただろう。憤懣やる方ないところはあっただろうが、平静を務めていた。

 20時30分にBVBが公式に試合の延期をツイートする。

「新しい試合の設定:4月12日18時45分開始。手元のチケットは有効」

 その頃、事故発生現場では、選手たちも現場を離れて家路に就いていた。『ビルト』電子版によれば、香川真司は20時36分に現場を去ったという。既にシャヒン、ベンダー、シュメルツァーは警官に先導されて現場を離れていた。香川と同時刻に現場を離れた選手は、他にビュルキ、ソクラティス、ギンター、プリシッチ、ヴァイデンフェラーがいる。

 20時41分にハンス・ヨハヒム・ヴァツケ社長が、改めて場内のファンに状況を説明した。そして本来であればCLの試合がキックオフするはずだった時間の20時45分には、スタジアムはほとんど空っぽとなる。その後、人気のなくなったスタジアムで、翌日の試合に向けて、モナコ・イレブンはトレーニングを行った。

 狐につままれたような。当日スタジアムに居合わせた人間は、少なからずそんな感覚を抱いたのではないだろうか。事故現場が遠いとは言え、もちろん重大な事件に巻き込まれている。しかし翌日の試合後のミックスゾーンで、配備された警官が携えたマシンガンが突きつけてきたようなテロの恐怖は、直接的には胸の奥底には突き刺さってこない。

 知らず知らずの内に、誰もが非日常に引きずり込まれていた。それはテロが日常と化した欧州で、知らず知らずの内に人々が心を緩めていたことが、引き起こしたことなのかもしれない。

(取材・文:本田千尋【ドルトムント】)

【了】

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