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楠神順平と田代有三、シドニーの地で活躍する2人の元J戦士。それぞれの立場で挑む異国での戦い

楠神順平と田代有三。かつてセレッソ大阪でともにプレーした2人は今、オーストラリアの地で奮闘している。それぞれ違った道を歩んではいるが、ともに現地で高い評価を獲得した2人は異国の地で何を思いサッカーに打ち込んでいるのだろうか。(取材・文:植松久隆【シドニー】)

text by 植松久隆 photo by Taka Uematsu, Nino Lo Guidice

PKを外してシーズン終了。120分の末に背負った重圧

楠神順平
オーストラリアで1年目のシーズンを終えた楠神順平。結果には全く満足していない【写真:Nino Lo Guidice】

 家族と買い物に行く前の貴重なオフの午後に時間を割いてくれた楠神順平(29/ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ、以下WSW)。シドニーのお洒落な店が並ぶエリアのカフェの一角、リラックスした雰囲気の中でのやり取りで質問に打てば響くように応えてくれた姿は、前回のインタビュー時とは別人のようだった。

 それもそのはず。前回楠神と顔を合わせたのは、Aリーグ年間王者を決めるプレーオフ「ファイナルシリーズ」の「セミファイナル進出決定戦」対ブリスベン・ロア戦(4月21日)の敗戦直後。PK戦にもつれ込んだ激戦で、WSWの6人目として蹴ったPKが相手GKに弾き出されて、がくりと両膝からピッチに崩れ落ちた直後だった。

 その夜、ロッカー裏で待ち構えた筆者の前に現れた楠神は、大事な試合の敗戦の責任の大きさに呆然自失。「あの時はボーッとしてて、質問にきちんと答えられたか全然覚えていない」と本人が後に振り返ったその落胆ぶりは、筆者も最低限のことを聞いて手短にインタビューを終えなければならないほどだった。

 プロ入りしてからほとんど蹴ったことがないというPK。しかも、両軍の誰もが失敗していない状況下で、猛るアウェイサポーターの眼前。6人目としてボールをセットした時には計り知れない重圧があったろう。120分の死闘で最も動き回り、足も攣っていた選手に誰かが背負わなければいけない辛い役回りが回ってくる運命の皮肉だろうか。

 そのPK自体は「もう、頭が真っ白で……」と顔面蒼白になりながら振り返るのが精一杯だった。実際、自分がPKを外してからの試合後の記憶はかなり曖昧だという。

「うーん、皆に申し訳ないのが一番…120分、皆、本当に集中して戦ってたし、本当に頑張っていた。うーん、それなのに、俺が(PKを)外して負けちゃったから…」

 絞り出すように「うーん」という間投詞を何度も挟みながら試合後の楠神は懸命に言葉を繋いだ。その日のコメントは、「こっち(豪州)にチャレンジしに来て、なかなか満足のいく結果が出ず、最後はこんな形で(Aリーグのシーズンを)終えることになって本当に悔しい」との一言で終わった。

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