ストライカー“兄弟”が喚起する競争。マリノスを高みへ導くか
富樫は冗談も交えながらトレーナーへの感謝を口にする。先月31日のYBCルヴァン杯グループステージ第7節・サンフレッチェ広島戦で本格復帰し、川崎F戦は負傷が明けてからの公式戦2試合目。やっと思い描いていた理想の結果が出た。
「(負傷が)ここまで長引くとは思っていなかったし、その分チームにも迷惑をかけたと思う。ここからは(再発しないよう)細心の注意を払ってやっていくしかない。ここでまたもう1回スタートというか、一喜一憂せずに勝っていくだけかなと思います」
富樫の狂いかけていた歯車が再び噛み合い始めた。
2試合連発で序盤の勢いを取り戻しかけているウーゴと12試合ぶりのゴールを挙げた富樫は、ポジション争いのライバル以上の関係を築いている。そういった意味でも川崎Fとの神奈川ダービーは2人にとって重要な分岐点となった。
「ウーゴは見習うところばかりだし、僕の好きな選手のタイプでもあるので、いいところを見習って競争できればいい。いろいろ気を使ってくれている感じはあるし、僕からしたらちょっと兄貴感というのもあるのかな」
こう富樫が話せば、ウーゴは「ケイマン(富樫)はファンタスティックな選手で、試合に出るときは僕から『絶対に点を決めろよ』と声をかけている。2人で競い合えばより高いレベルに達していくと思う」と“弟”を称える。
伊藤翔が負傷離脱した今、なかなか波に乗れないマリノスを浮上させられるかどうかは残されたFW陣の活躍にかかっている。それは紛れもなくウーゴと富樫のこと。彼らは長く苦しいトンネルを抜け、光を掴もうとしているところだ。
彼ら2人の“兄弟”による競争がチーム全体の底上げにもつながる。齋藤やマルティノスの崩しの鋭さに、ウーゴや富樫のゴール前での怖さが加われば、エリック・モンバエルツ監督が目指すサッカーはより完成に近づくだろう。それぞれの葛藤を乗り越えた背番号7と背番号17の切磋琢磨が、トリコロールを高みへ導く。
(取材・文:舩木渉)
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