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アジア 7年前

川崎Fが到達した新境地。クラブ史上初のACLベスト4へ、中村憲剛の確かな手応え

text by 藤江直人 photo by Getty Images

ミスを補った個人の閃きと技

 ワンタッチパスもあれば、あえて緩めのパスを交換することもある。緩急も自在に使い分けながらレッズの選手たちを翻弄し、次第にペナルティーエリア付近にまで侵入していく。

 15本目のパスは、家長が左タッチライン際から中村へ出したショートパス。家長はそのまま中央へ走り、中村からリターンをもらおうとした。しかし、緩めのパスはわずかながらずれてしまう。

 通りすぎていった家長にはわたらず、そのままボールが転がっていく。レッズだけでなくフロンターレの選手たちまでもが一瞬ながら足を止めた瞬間、中村は「いける!」と閃いた。

「カバーに入ってきた、確かマウリシオ選手の股がちょうど開いていたので。これはいけるかなと思ったら抜けて、今度はシュートを打とうかなと思ったんですけど、(小林)悠がまた見えたのでパスを出しちゃいました。ドリブルもあるんだよ、というのをたまには出さないと」

 画竜点睛を欠いたかに映った16本目のパスは、中村が図らずも自分自身へ放った“一人スルーパス”となる。慌ててボールに寄せたマウリシオの股をワンタッチで通して、ゴールライン付近にまで切り込む。

 この時点でレッズの守備網は完全に崩壊していた。中村のシュートをまずは意識せざるをえないし、そうなればゴール中央に巧みにポジションをとっていた小林のマークが甘くなる。

 ミスを個人の閃きと技とで補い、守護神・西川周作の牙城を打ち破った先制弾で主導権を握ったフロンターレは、後半開始早々の5分にもDFエウシーニョが豪快なジャンピングボレーを決めて優位に立った。

 このシーンでは中央をドリブルで突破したネットが、左前方の小林へスルーパス。左足からのシュートは西川にセーブされたものの、こぼれ球をゴール前まで詰めていたエウシーニョが押し込んだ。

「エウソン(エウシーニョ)がなぜあそこにいたか、わからないんだけど」

 右サイドバックのエウシーニョが、まるでフォワードのようにゴール前へ詰めていたことに、中村は苦笑いを隠せなかった。それでも、人がわき出てくる波状攻撃には大きな手応えを感じている。

「相手が真ん中を消してくれば外から攻めればいいし、外を埋めてくれば真ん中が空いてくる。そういうことを僕だけじゃなくて、みんながわかってきている。自分たちがボールを保持できていたので、どこが空いてくるのかを探しながら、たとえ取られてもすぐに回収できていたからね」

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