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アジア 7年前

川崎Fが到達した新境地。クラブ史上初のACLベスト4へ、中村憲剛の確かな手応え

text by 藤江直人 photo by Getty Images

“らしさ”を欠き苦しんだシーズン序盤戦

川崎フロンターレの鬼木達監督
川崎フロンターレの鬼木達監督【写真:Getty Images】

 試合前のアップで異変を訴えた柏木陽介を欠くアクシデントはあったものの、レッズは当初から阿部勇樹をアンカーに配置。その前に2人のボランチをすえる、守備重視の布陣で臨んできた。

 矢島と組むボランチが柏木から青木拓矢に変わっても、まずは真ん中のスペースを消すレッズの狙いは変わらない。先制点はその逆を突くかたちで、左サイドを徹底的に揺さぶったすえに生まれた。

 ひるがえって追加点は中央突破から。9月13日に埼玉スタジアムで行われる第2戦へも大きな影響を与える後半40分の小林のゴールは、左サイドから家長があげたクロスに導かれたものだった。

「ただ、相手も監督が代わってから日が浅いからね。監督が代わったら、それまでのシステムや選手でやっても、微妙にやっていることが変わってくる。そういうところは、まだ煮詰まっていないのかなと。僕たちもオニさんになってから、やっぱり時間がかかったので」

 2012シーズンから長期政権を築いてきた、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が解任されたのが7月30日。コーチから昇格した堀孝史新監督の意図が、まだ完全に浸透していないのではと中村はレッズを慮った。

 フロンターレも生みの苦しみを味わわされてきた。4年半にわたって、独特のポゼッションサッカーを標榜してきた風間八宏監督(現J2名古屋グランパス監督)が昨シーズン限りで退任した。

 ヘッドコーチから昇格した鬼木新監督は前任者のスタイルを踏襲するとともに、攻守の切り替えの速さと球際における激しさを融合させる路線をとった。一度伸びた技術は落ちない、を前提としていた。

 しかし、序盤戦は“らしさ”を欠いた試合が続く。たとえばACLのグループリーグでは、初戦から4試合連続ドローで一時は敗退の危機に直面した。もがき苦しんだ時期を、中村はこう表現したことがある。

「ボールをもつ、相手のマークを外すというところで、ちょっとピンボケしていた。やっぱり自分たちがボールをもつことに特化しないと、このチームはダメだと思うので」

 指揮官交代が与えた影響が大きすぎたゆえに、新監督の要求を実践しようという意識が強くなっていたのだろう。迎えた4月21日の清水エスパルス戦を前にして、鬼木監督が訴えた。

「やっぱりボールを握ってナンボだろう」

 時計の針が「攻守の切り替えの速さ」や「球際における激しさ」へ振れすぎたころを見計らって、前任者の時代から脈打つ原点回帰も意識させた。相反する2つのスタイルが、融合に向かった瞬間だった。

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